Und der Engel ging hinunter.
第一話




 自分で云うのもなんだが、私は非常に平凡な人生を歩んできていると思う。
 高校三年になったばかりの現在、彼氏はなし、バイトと受験勉強に明け暮れる毎日。
 家族は両親と弟、犬一匹。都内ではやや高級と云われる住宅地に庭付き戸建の家に住み、ご近所との仲も良好。家族内ではときどき小さな問題は起きたりするけれど、それだって些細なことだから次の日には大抵元通りになる。
 学校生活も特に不自由もなく送り、友人はまぁ多い方だと思う。進学校といわれる高校であるために勉強量は半端じゃないけど、志望校を考えれば妥当だし、苦痛にも思わない。受験生特有のピリピリした空気だって居心地が悪いわけでもない。それに今時珍しく、抜くところは抜いて、やるときはやる、を徹底した学校なのでなかなか充実した生活を送れているのだろう。
 高校に入ったころからやっている喫茶店でのアルバイトも、三年目にもなればほとんどのことがわかるし、馴染みのお客さんや仕事仲間と楽しくやっている。将来はこういう仕事をするのもいいかもしれない、と思ったりもする。
 平均的に見れば、多少は裕福な部類に入るのかもしれない。が、自分自身では平平凡凡そのものだと思っているので気にしない。
 このまま大学に行って、いろんなことを経験して、彼氏を作って、就職して、結婚して、子供を産んで、育てて、きっと年をとっていくのだろう。なんでもない人生を歩んで行くんだろう。
 そう思っていた。
 そうだと思っていた。
 今、この瞬間までは。

「―――え…」

 ふわり、と浮遊感。
 これは遊園地のジェットコースターの落下のときに似ている。ぼんやりそんなことを考えている視界の端で、友達が真っ青な顔で私を呼んでいるのがわかった。
 何をそんなに慌てているのかわからなくて、大丈夫だよと云おうとしたのに声が出なかった。喉が詰まったように、呼吸すらもままならない。
 そして移る世界は、私を置いて上に登っていく。
 これが自分が階段から落ちているせいで錯覚を起こしているのだとは、このときの私には知る由もなかった。

 暗転。










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地味に開始です。