「ちゃんてさぁ…」 「なんです」 「ホンットーに頑固だよねぇ」 「……改めて云わないでくださいっ」 |
Und der Engel ging hinunter.
番外編 日常・パソコン教室 |
研究の合間、グンマは休憩も兼ねての部屋に遊びに来ていた。今日は休みだから部屋にいると聞いていたのだ。 グンマ好みの甘いケーキと、最近体重が気になるというのための甘さ控えめマドレーヌを持って顔を出せば、普段は滅多に使っていないパソコン画面にかじりついている美少女新米秘書を目撃してしまったわけである。 何事かと訊ねてみれば、 「苦手なままじゃ駄目だと思いまして」 と、相変わらずパソコンに向かって答えた。 どこか完璧主義なところがある彼女は、加えてマジック崇拝者だ。は一体どんな勘違いかマジックを完璧な人間であると思っている節があるので、大方そんな彼に仕える自分に苦手があってはいけない、とでも考えたのだろう。 単純といえば単純だが、ならば話は早い。こんなものはグンマの専門分野なのだ。 何もはグンマたち開発課の人間ほどパソコンを使えなくてもいいわけだから、使いたい機能だけを厳選してマスターすれば十分なはず。 ここはグンマ先生の出番かと思い提案してみたところ、思わぬ返事が返ってきた。 「自分で覚えなきゃ、身に付きませんから」 結構です、ときっぱり断られてしまったわけである。 夏休みの宿題じゃないんだから、と呆れたが、確かにそれも一理ある。とりあえず二人はお茶で一息ついてから、は再びパソコンと格闘を始め、グンマは微笑ましげにその様子を眺めていた。 10分20分と観察し、生暖かい視線を注ぎながらグンマは思った。 センスがない。 一言に尽きた。 料理や勉強、その他のことには要領よく対応出来るし、器用貧乏と云えなくもないが、それでも料理に関してはプロ級なので全体的に非常にバランスがいいタイプなのだろう。 しかし、その代償なのか、恐らく機械関係のセンスやら適応性だけが根こそぎ抜けてしまっている。 後ろから眺めているグンマは、ぎこちなさすぎるマウスの動きや、時々首を傾げながらキーボードを打つ姿を見て笑いを堪えるのが大変だった。おかげで腹筋が鍛えられた気すらする。 他のことへの対応力の、ほんの少しでもこの分野にわけられたらいいのに。 そんなことを思いながら、冒頭に繋がる訳である。 「ねぇ、やっぱり僕、教えるよ?」 「駄目です。自分で…」 「出来なさそうだけど?」 「うっ……」 薄々気付いてはいたのだろう。図星を疲れたように固まると、はがっくりと肩を落とした。どうやら諦めたようだった。 真面目すぎるのも考えものだとグンマは思った。今のの場合は、真面目以上に頑固なところが問題だったが。 普段は彼女の長所であり、彼女たる理由であるそれらが思わぬところで弱点になってしまったのだ。 それでもしばらく頭を抱えて悩んだだったが、漸く諦めてお手上げのポーズ、つまり両手を上げた。 「ギブアップです。グンマさま、お願いします」 「さいしょっからそうしたら早かったのに」 ぼそりと呟くと、は明後日のほうを向いて知らん顔をした。 かくして対頑固少女のパソコン教室を開講したグンマ先生は、原始人すら思わせるほどの機械音痴っぷりに度肝を抜かれてしまったのだった。それでも最低限の知識と技術を教え込んだのだから、意外とグンマには教育の才能があるのかもしれない。 後日、マジックに褒められて俄然やる気を出したが、再びグンマにパソコンを教わりに行くのだが、それはまた別の話である。 ----------------------- マジックさまは完璧です |