Das Gluck, das die Welt uberblickte T‐1





最初の記憶はいつだって同じだった。
ゆっくりと思い出す努力をすれば、確かにそれ以前のことも憶えていることを確認出来る。けれど、ふと浮かぶ最古の記憶は、いつも同じなのだ。
どうしようもなく、まったく、同じ場面ばかりが脳裏で繰り返される。
それは一種の拷問のようにも思えた。
しかし、もしもこれが拷問ならば、一体誰が与えているものなのか?
発した問いは言葉になることはなく、また、問いに返事が来ることはなかった。

見渡す限りの荒野。荒れた地表。緑の木々も、草も、建物も、人もない。ただ荒れ狂った広大な土地だけが目の前にあった。
自分はぼろ切れのような布だけを纏い、呆然と荒野の真ん中に座り込んでいる。眼は泣き腫らしたように熱く、重い。喉も渇れたようにチクチクと痛んだ。
荒野を覆い尽くす空は真っ赤で、まるで誰かの流した血のようだった。そのくせ酷く美しく、ともすれば見惚れてしまいそうな強烈な鮮やかさと、同時に目眩を覚えるほどの禍々しさを併せ持っていた。
そんな中、ぽつん、と。
自身はたったのひとりだった。
誰もいない。
誰も、どこにもいない。
何もない。
最も貴く、最も尊く、最も優れた文明を誇り、ほんの少し前まで人類最高とされたものは、国も民も領土も、すべて消えてしまった。
消してしまった。
自身が。
すべてを破壊したのは、他でもない、自分自身なのだ。
自分が何をしたのか憶えている。
だからこそ、苦しくて、どうしようもなかった。けれど、誰かにこの声を聞いてほしくても、その誰かは自身が消してしまったのだ。
今や自分の声を聞き届けてくれる人はいない。それどころか、語りかけるような代物は、すべて消えてしまっている。
家族も友人も知人も愛した人も、誰も彼も消してしまった。
残ったのは、自分の身体ひとつだけ。
枯れ果てたと思った涙が、再び溢れ出した。
喉が震える。
天を仰いだ次の瞬間、咆哮。
腹の底から絞り出されるかのような、まるで自分から発せられたとは思えないよな、重く響く叫び。
最早何を口走っているかもわからないほど、ただひたすら声を発した。
誰もいない荒野。
何もない空間。
自分だけが呼吸を繰り返す無意味な場所に、罵声とも、怒声とも――泣き声ともわからない叫びが、ただ響いた。

最初の記憶はいつだって同じだった。
ゆっくりと思い出す努力をすれば、確かにそれ以前のことも憶えていることを確認出来る。けれど、ふと浮かぶ最古の記憶は、いつも同じなのだ。
どうしようもなく、まったく、同じ場面ばかりが脳裏で繰り返される。
それは一種の拷問のようにも思えた。
しかし、もしもこれが拷問ならば、一体誰が与えているものなのか?

なぞなぞをしよう。
文学的ななぞなぞではなく、数学的ななぞなぞをしよう。
文学的ななぞなぞは、時に複数の答えが発生する。けれど、数学的ななぞなぞは、パズルのピースのように、用意された答えはたったひとつだけ。
なぞなぞをしよう。
それは生産的なものではないかもしれない。非常に消極的で、非生産的な答えしかないものだけれど。

『人と同じ形をしている。人にしか見えないもの。そこには在るけどどこにもいない。さぁ、それは一体何でしょう?』

最初の記憶はいつだって同じだった。
ゆっくりと思い出す努力をすれば、確かにそれ以前のことも憶えていることを確認出来る。けれど、ふと浮かぶ最古の記憶は、いつも同じなのだ。
どうしようもなく、まったく、同じ場面ばかりが脳裏で繰り返される。
それは一種の拷問のようにも思えた。
しかし、もしもこれが拷問ならば、一体誰が与えているものなのか?

最初に思い出すのは、19歳最後の日。
彼女が人間だった頃の記憶。

最初の記憶は、彼女が、"人"ではなくなった日。










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それは、遠い昔の話。