明日僕はさよならをする





時折思い出したかのように浮上する意識。ああ、束の間の休息、本当の自分。
ウィンディが近くに居ないことを確認し、安堵の溜め息をついた。この時間はそう長くない。またすぐに意識を支配されるのだろう。
自分はソウルイーターを入れるための器として利用されるのだ。わかっている。ならば、いっそこの瞬間に命を絶ってしまえば、とも考えた。けれどそれが出来なかったのは、大切な人たちが脳裏をよぎったからに他ならない。テオ様、グレミオさん、パーンさん、クレオさん、そしてティル。俺の三百年という長い月日の中での、唯一の親友。
せめて、せめて最後にもう一度だけ彼らに会いたかった。謝りたかった。感謝の気持ちを伝えたかった。そうしたら漸く、死ねるのだ。そうしなければ、死ねない。

押しつぶされそうになる意識の中で、あの魔女が明日どこかへ行くと云っていたのを聞いた。連れて行くとは云われていないが、おそらく明日、親友からソウルイーターを奪うつもりなのだろう。
この俺を使って。
ティルは優しい。だからこそ危険で、そして強い。優しさは諸刃の剣だった。しかし、明日はティルの優しさが凶器となってティル自身に襲いかかるのだろう。
惑わされないで欲しい。明日お前と話すのは俺ではないのだから。お前の親友である、テッドなどではないのだから。どうか、俺ではないことを見抜いて欲しい。そうして。出来るなら。

―――なぁ、親友。一生のお願いだよ

残酷なことを云うかもしれない。
だけどどうか、わかって欲しい。
これは犠牲じゃないから。決して犠牲じゃないから。
誰かの為に命を掛けられるほど、俺は出来ちゃいない。そんな俺に出来る、たった一つの最期の仕事。それがこういう結果だったと云うだけだ。

―――俺を殺してくれないか

お前たちが大切だったよ。
心から大切だったんだ。
心配かけてごめん。
迷惑かけてごめん。
自分勝手でごめん。
優しさをありがとう。
温もりをありがとう。
この数年は俺の人生の中で最も大切な時間だった。
嘘じゃない。
灰色だった世界に絵の具がぽたりと落ちて、まるで水彩画みたいに色鮮やかになっていった。俺のキャンバスに空白はない。全部色彩に彩られている。
どんな言葉も安っぽすぎて、巧く伝えることが出来ないけれど、みんなに出逢えたから俺は幸せなんだ。死んだって幸せなんだ。
だから。





(哀しまないで親友よ。君には笑って欲しいから)

(幾星霜の星となって、天から君を見守るよ)

(さよなら)

(さようなら)

(ありがとう、親友)










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テド坊じゃなくて、テッドと坊ちゃん。
彼らはカップリングにしちゃいけんと思うのだよ……