君の行方




 足元の彼女がぴくりとも動かない。
 声をかけた。返事はない。
 肩を揺すった。反応はない。
 力無く握られた手は僅かに筋肉が硬直し始めている。
 仰向けに地面に寝そべる身体にはまるで生気が感じられず、花のように散りばめられた色素の薄い髪はどこか虚しかった。
 この状態が正常でないことは明白だった。
 どうしたらいいんだろう。
 何をすればいいんだろう。
―――誰かに、先生に知らせなければ。
 しかし身体が云うことをきいてくれない。足元の彼女を見つめたまま視線も何もかもが動いてくれない。
 まるで自分の身体ではないような感覚に陥って気分が悪い。頭がグラグラする。吐き気がした。
 じわじわと襲いかかる倦怠感と脱力感についには負けて、思わず片膝をついてしまった。せり上がる嘔吐の衝動を抑えるように口を手で覆う。
 生臭い血の臭いが鼻孔をついた。哀しいわけでもないのに――否、もしかしたら、心のどこかでは哀しんでいたのかもしれない。ただこの状況がうまく把握出来ず混乱していたから、自分の感情をも忘れてしまっているだけで。生憎、それを正確に知る術を持ち合わせてはいないけれど――目頭が熱い。  名前を呼びたかった。一度でいい。呼びたかった。名前を、彼女の名前を。

『   』

 名前を呼ぶ、たったそれだけだというのに、声は出てくれなかった。振動しない喉がカラカラした。痛い。音を発さない口は、ただ虚しく閉口するのみだ。

 あなたは一体どこへ行ってしまったのだろう。
 僕を置いてきぼりにして、一体どこへ。

 その旅路は寂しくはないだろうか。ひとりで行ってしまった君は、何を持って行ったのだろう。
 君を失った僕は、どこへ行けばいいのだろう。





(血溜まりに手をついた。掌は真っ赤に染まった。君が死んだのだと理解したとき、新野先生の声がした。)










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どうして君はそんなに急いて逝ってしまったの?