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「あなたは嘘つきですね」 「ええ、どうして?」 「だって、」 「あら、駄目よ善法寺くん。男の子なんだから、泣いては駄目」 「泣いてなんか」 「うふふ、やっぱり君は優しい子ね」 「先輩」 「とても優しい子。きっと良いお医者様になるわ」 「意味がありません、そんなんじゃ」 「いいえ、意味はあるわ。これから、救われる人が沢山出るもの」 「意味なんてない。未来じゃ、未来なんかじゃ」 「先があるというのは素晴らしいことよ」 「私は」 嗚咽を堪える。 鼻の奥がツンと痛んだ。泣きたい。でも泣けない。 私は。 私は、先輩。 「今、あなたを救いたいのに」 脇腹に突き刺さっていた弓矢は、私が駆け付ける前に先輩が引き抜いてしまったようで、ポッカリと開いたその穴からは、一目で明らかに致死量とわかる血液が流れ出ていた。 先輩を中心にして、赤黒い血が辺りに広がっている。 悲惨、というのは、正しくこのことなのだろう、と思った。 私は忍術学園の門をくぐっての四年間、ここまで凄まじい光景を見たことなどなかった。 「善法寺くん」 先輩は保健委員の先輩で、尊敬していた。保健委員としても、勿論人間としても。 いつも誰にでも優しくて、一緒にいるとホッとする人で。 好きだった。 大好きだった。 恐らく、恋愛感情で。 血の気を失った先輩の手がゆっくりと私の頬に伸びてきた。 そっと私の頬に触れたその手は、泣きそうになるくらい冷たくて、私は自分のそれを先輩に重ねた。 「先に、逝くね」 ごめんね、やっぱり私、嘘つきだったね。 ゆっくりと静かに閉じられた瞼に、私の涙の滴が、落ちて。つ、と、頬を伝った。 -------------------- だから私は、あなたが目指した医者になりたかった。 あなたのように、優しい人間になりたかった。 |