「えいやっ」

気合いと共に放った棒手裏剣は、見事に木に突き刺さった。
食満先輩の目の前を横切って。

「・・・おい」

「あ、やった刺さった」

「もう少しで俺に刺さるところだったぞ」

「えっ、それくらい避けてくださいよ」

「お前は俺をなんだと思っている」

「学園一忍者してると噂の潮江先輩にもいけどん体育委員長の七松先輩にも今一歩及ばないながら忍術学園でも武闘派と名高い9年目のプリンス食満先輩」

「そうか、泣いていいか?」

「ご自由に」

笑顔で告げると、刺さった棒手裏剣を引き抜いた先輩は鬼の形相で私を睨んだ。それを手にしたまま睨むのは出来ればやめてほしいと思うのは間違っていないはず。
っていうか、訊くから答えたのに、その反応はあんまりだ。

「だいたい、こんなもの人に向けて打ったら危ないだろう!」

「えー、でも先輩、手裏剣は人に打つものですよぅ」

「実戦ではな」

まったく、と呆れたようにため息をつく食満先輩から棒手裏剣を受け取り、状態をチェックして懐に仕舞う。自腹で買ったものだから、なるべくキレイに使いたいのだ。

「まさかお前、誰彼構わず狙ってるんじゃないだろうな」

「人を節操なしみたいに」

心外だ。非常に心外だ。
プゥと頬を膨らませて睨みつけたが、先輩は涼しい顔でそっぽを向いてしまった。

「私がこんなことするの、食満先輩だけに決まってるじゃないですか」

「嬉しくない」

「喜べ!」

「あほか!!」

びしりと突きつけた指を、手刀で落とされる。手加減はしてたんだろうけど、だからといって痛くないかというのとは別な話。地味に痛い。
これ見よがしに手に息を吹きつけていると、ああそういえば、と先輩は呟いた。

「ときに、ようかんは好きか?」

「芋ようかんなら大好きです」

「限定か」

「いえ別に」

「なら、昨日食堂の手伝いをしたときにおばちゃんにもらったようかんがあるんだが」

「えっ、まさか私と一緒に食べたいんですか?」

「一緒にどうかと誘うつもりだったが気が変わった」

「わーいゴチになりますっ」

「お前は少し、人の話を聞くことを覚えろ」

「えっ、なんて?」

「・・・もういい・・・・・・」






僕らの日常





じゃれあい、噛み合わない会話。
その全部が、僕らの日常。










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くだらないことがたまらなく大切な日常になる。

20100612