忍たま及びくのたまの五年生、六年生ごちゃまぜペア対抗札取り合戦。
早い話、ペアで一枚の札を持って、制限時間内にそれを守り抜けばいいというもの。もちろん別のペアから札を奪えば得点はプラスされる。
云ってしまえば自分たちの札を持ったまま逃げ回って制限時間をやりすごせばいいわけだけど、ここは忍術学園だ。そんな保守的な選択をする生徒は一人もいない。
みんな、ペアになった人と知恵を巡らせ力を合わせて、一枚でも多くの札を手に入れようと気合い十分だ。
かくいう私もその一人なのだけれど。
何というか。
一応それなりに人数はいるのに、何故この確率で。

「俺で不満か」

「先輩は不満じゃないです」

私のペアが食満先輩なのは、まだいい。神様ありがとう!って感じだ。別に神様とか信じてないけど。
問題は。

「ねぇ先輩」

「なんだ」

「狙うなら別のペアにしません?」

「何故だ」

「何故って」

私たちペアに文句は一切ないけど、私たちがターゲットにしようとしているペアには盛大に文句を云いたい。
何度も云うが、これは忍たまくのたま混合ペアで、そりゃあ確かに忍たま同士くのたま同士五年同士六年同士がペアになることだってあるわけど、その辺は先生たちがうまいこと調整してくれているはずなのに。

「何も、潮江先輩と立花先輩の最強ペアを狙うことないと思うんですよねぇ」

よりにもよって、あの2人。
ただでさえい組には優秀な人が集まっていて、さらにその中でもトップクラスの2人がペアって何事でしょう。
事実上、あの2人が優勝みたいなものだ。大袈裟な話ではなく。
ということは、ここは触らぬ神に祟りなし、別なペアから札を奪うことを考えるのが利口なはずだ。
現時点で私たちの持ち札は一枚。最初に先生に与えられた、自分たちの最初の分しかないのだ。
つまり、これを取られたらその場でリタイア、この授業の後には楽しい楽しい補習授業が待っている寸法である。

「馬鹿云え。ここで俺たちがあいつらから札を奪えば、それこそ優勝確実だろう」

「勝算は?」

「一割未満」

「絶対やだ!!」

馬鹿かお前!
と口走らなかった自分を褒めたい。こんなんでも一応先輩なのだ。
しかしやり場のないこの思いをどこに向けるべきかわからず、さしもの私も我慢ならなかった。
別に、本気で潮江先輩立花先輩ペアを狙うなら、私だって玉砕覚悟で本気を出すくらいのつもりはある。やるからには、例え相手の強さを痛いほどわかっていても、全力を尽くす覚悟は持っている。
しかし、この男ときたら。
勝算一割未満と堂々と宣言した上で乗り込もうとするのだからやっていられない。
正直、嬉しかったのだ。
同じペアになれて。
数いる忍たまくのたまの中から、まさかペアになれるとは思わなかったから、嬉しかったのだ。
だから、出来るだけ最後まで残って――ギリギリまで一緒にいられたら。
そう、思ってたのに!

「がっかりした!そんなにあの2人を狙いたいなら1人で行ってくださいね、私、知らない!!」

人の気も知らないで、爪先立ちで目の前のものしか見ようとしない先輩に、がっかりした。
と同時に、先輩は私とペアになったことなんて何とも思ってないんだな、と思ったら無性に哀しくて、悔しいことに泣きたくなった。
札取りは、基本的にペアですべての行動を取らなければならないルールだ。つまり、別行動は原則禁止だし、狙うならペアを絞ってお互い協力して作戦を立てなければとてもじゃないが札は奪えない。
わかってはいるけど、こんな無謀な男に協力してやる気がまったく起きなかった。
我が儘なのはわかっている。
授業なのだと割り切れない自分が子供なのかもしれない。
でも。
すごく、寂しかったのだ。

「・・・何を怒ってるんだ?」

「呆れてるんですッ!」

「だから、何で」

「自分の胸に訊いてみたらいかがですかッ」

心底不思議そうに首を傾げるものだから、更にイライラした。
わかってない。
ぜんっぜん、わかってない。
もうやだ、こうなったら今日の授業、評価が最悪になっても絶対先輩に協力なんかしない。
と、密かに心に決めていると、ふむ、と呟いた先輩が続けた。

「俺は、お前とペアなら何でも出来る気がしたんだがな」






僕らの授業





「なぁ、さっきからあそこで馬鹿みたいに騒いでるやつら、どうする」

「放っておけ。そのうち他のペアに見つかるだろう。そうしたら、寄ってきたペアを私たちが狩ればいい」

「・・・お前、何気にあいつらに甘いよな」

「何を云う。自分こそ、呆れるだけで狩るつもりなどないくせに」

「まぁそうだけどよ」

いくら離れてても、あれだけ騒げばバレて当然である。
結局、このあとまさかの中在家先輩七松先輩ペアに見つかって、い組ペアに助けられる暇なく問答無用に札を奪われ即リタイアになった私たちペアだったが、補習授業はペアで裏裏山に薬草摘みだったので、ちょっと楽しかったというのは先生には内緒だ。










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無自覚たらし男、食満(´ω`)


20100620