面白くない。

「あ、潮江先輩!」

いつものように一緒に昼を済ませ、午後の授業までの空いた時間をどうするか考えながらぼんやり歩いていると、少し先の曲がり角から文次郎がやってきた。今日い組は午前中は野外実習だと仙蔵が云っていたので、今帰ってきたところなのだろう。
仙蔵や他の六年ならともかく、相手が文次郎ならば労ってやる必要もない。
しかしまぁ同級生のよしみで声だけはかけてやるか、と口を開きかけて、閉じた。
俺より先に、隣から文次郎に声がかかったのだ。

「おお、お前らか」

「実習お疲れ様です!今なら食堂空いてますよ」

「そうか。ならさっさと行くとするかな」

「今日はAランチがおいしかったですよ〜。酢豚です!」

「あー、あんまり酢豚は好かんな・・・」

「え、忍者が好き嫌いしていいんですか?」

「・・・云ったな」

「うふふ!」

「・・・まぁ、とにかく俺は食堂に行く。じゃあな」

「はい、また!」

ふたりの会話を、俺は黙って聞いていた。
なんとなく、口を挟める空気ではないような気がした。

「・・・・・・・・・」

とゆうか、俺は知らなかったぞ。
こいつらいつの間にこんなに仲良しになってたんだ。
腹が立つ。
イライラする。
どうしようもなく腹の中にもやもやしたものが溜まる。

「・・・食満先輩?」

すると、文次郎と朗らかに挨拶を交わし終えてから、漸く気付いた、という風に俺に声がかかった。

「どうしました?」

「・・・別に」

「・・・・・・?」

わけがわからない、という顔をされても俺も困る。
云えるか。
お前と文次郎が話しているのを見ていて嫉妬しました、なんて。


* * * * *


面白くない。

「お、ユキちゃん」

潮江先輩とわかれてから急に機嫌が悪くなったように押し黙ってしまった食満先輩が、前から歩いてくる私の可愛い後輩に声をかけたのは、別におかしなことじゃない。
くの一には用具委員会はないので、必然忍たまの用具委員がくの一のフォローをすることになるわけで、特にユキちゃんはよく用具倉庫に顔を出す子だった。
曰わく、一応じゃんけんで毎回誰が用具倉庫に行くか決めるらしいが、負けることのほうが多いという話だった。こんなに運が悪くなったのはあいつのせいだ、とぶつぶつ云っていたのは何の話だろうか。
ただ。

「あ、うふふ」

「どうした?」

「いやー、またふたり一緒なんだなぁって」

「・・・からかうなよ」

「からかってませんよーだ。嬉しいくせに!」

「あのなぁ!」

「じゃ、先輩方、あたしこれからご飯なんで失礼します!あんまりみせつけないでくださいよー?」

「おいコラ」

「きゃあ怖い!」

ふたりの会話を、私は黙って聞いていた。
なんとなく、口を挟める空気ではないような気がした。

「・・・・・・・・・」

ていうか、何、このふたりってそんなに仲良かったの。私は知らなかった。
なんだかもやもやした。
胃の中に澱のようなものが溜まる感じがして、酷く気持ち悪かった。

「・・・どうした」

「・・・いえ」

「・・・・・・?」

なんなんだ、って顔をされても返答のしようなんてない。
だって、云えるか。
先輩とユキちゃんが話してるのを見て嫉妬してます、なんて。






僕らの嫉妬





(自分以外の異性を見ないで、なんて)

(傲慢すぎて云えない我が儘)










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付き合ってないからこそ云えない文句でもあったり


20110128