用具倉庫に閉じ込められた。不可抗力である。 実を云うと、最近落とし錠の調子が悪いと報告を受けていたのだが忙しくてそのままにしていた。 授業片付けで用具倉庫に来て、そういえば錠が落ちてはまずいと思い扉は開けっ放しにしたら、運悪く強風が吹いた。 バタン。 扉が閉まった。 ガチャン。 衝撃で錠が落ちた。 では訂正、俺の過失だった。 片付けたらすぐに出るつもりだったので火など持っているはずもなく、当然真っ暗な倉庫内は酷く埃臭く、息苦しい。 換気口はあるから窒息の心配はないが、脱出するには小さすぎる。 救いなのは、もう半刻もすれば授業が終わり、誰かしらこの用具倉庫に来ることだ。夕方でなくてよかった。と、事態を前向きに捉えてみる。 とりあえずすることがないので扉の前に仁王立ちしていると、背中に声がかかる。 いつも通り、落ち着いた声。 「食満先輩」 「何っだ」 噛んだ。 しかし別にびくついてない。 うん。 「これ、授業出られませんよね」 「・・・そうだな」 「さぼりですよね」 「・・・そうだな」 「補習になったら責任取ってくださいね」 「・・・すまん」 怒ってる。 こいつのこの反応は、確実に怒っている。 これまでの付き合いがあるからこそわかるが、この反応は、結構怒っている。 正直後ろを向くのが非常に恐ろしい。 絶対に般若がいるのだ。 般若が俺を射殺さんばかりに睨みつけているのだ。 この後輩は、普段おちゃらけているがその実、怒らせると大変なことになる。どっこい仙蔵のやつと同レベルだと俺は思う。 ああ、しくじった。 せっかくの機会だというのに、俺は怖くてあいつを見ることが出来ないなんて。 * * * * * ここに閉じ込められてから、食満先輩の様子がおかしい。 さっきからずっと私に背を向けていて、一度も振り返ろうとしないのだ。 何か気に障ることをしただろうか。 考えても心当たりはさっぱりだ。 扉が閉まったのは風のせいで、錠が落ちてしまったのは運が悪かっただけなのに。 今し方の会話も、普段ならもうちょっと続くのにすぐに沈黙してしまった。 やけに素直に謝られたし。いつもだったら『俺のせいか?』とかなんとか云うのに。 なんだろう。 やっぱり気付かないうちに私は何かしでかしていたんだろうか。 真っ暗で視界が悪く、埃っぽい用具倉庫。 いつも先輩と一緒に来るときはいろんな道具の説明をしてもらったり、時には悪戯したりして楽しんでいた場所なのに、今は酷く居心地が悪い。 息苦しさの原因は、閉じ込められているからだけではないと思う。 「なぁ」 「・・・はい?」 「悪かったな」 「えっ」 「こんなことになって」 「や、あの・・・」 「早く誰か来るといいな」 「・・・そう、ですね」 ああ、そうか。 先輩は、こんなところに私とふたりで閉じ込められたから、こんなふうだったんだ。 そうか。 嫌、だったんだ。 そうか、そうか。 だからこんなに不機嫌なんだ。 なんだ、そうか。 気付いて、へこんだ。 どうやら今まで私は自惚れていたらしい。 授業さぼりは痛くとも、思いがけずふたりきりになれて嬉しいと思っていたのは私だけだったのだ。 途端に恥ずかしくなる。 ついでに、虚しくなる。 私、馬鹿みたいだ。 |
僕らの誤解
|
(すれ違う) (近しいからこそ、云えなくて) (この距離感が、もどかしい) -------------------- 好き合ってるのに、背中あわせ。 20110131 |