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大声を上げて泣けるのは子供の特権だと思っていた。 涙やら何やらでぐちゃぐちゃの顔を晒し、耳を刺すような声で泣くには、大人になっては体面が邪魔をする。 と。 思っていたのに。 「うわぁァァアァァん!!」 どうだろう。目の前で泣き叫ぶ彼の年齢は。確か十六、もうすぐ十七になるのではなかったか。そして、そもそも私よりも年上なはず。 だとゆうのに、彼はひたすら泣き叫び、哀しみを周囲に波及させていた。とはいえ、今この場には私と彼しかいないのだが。 「ううう、あぅ、う、わアァァアァん!!」 なんで彼と二人きりなんだろうとか、なんで彼は泣いてるのかとか、忘れてしまった。ただ、気付いたら彼がいて、彼が泣き始めた。 やめてほしい。こんなに哀しそうに泣かれたら、私も泣きたくなってしまうから。 「こまつださん」 「う、うう、な、何、?」 「泣かないで」 「だ、だって、」 だって、なんて子供が使う言い訳だ。なのに彼が使うとやけにしっくりくるのはなぜだろう。 彼はしゃっくりあげながら、漸く呟いた。 だって。 「君が泣かないから」 そんな顔をしてるのに。 笑ってるふりして。 気丈に振る舞って。 どうして我慢するの? 苦しいだけなのに! なら、君が泣かないなら、代わりに僕が泣いてあげるから。 「辛いのはダメだよ」 ―――ああ、この人は。 思わず噴き出してしまった。なんてお節介で勝手な人だろう。全部彼の自分勝手な考えなのに、それがまるで正しいかのように云う。 でも、やめて。 あなたに何がわかるの。 忍者じゃないあなたに、何が。 そう、思うのに。 「こまつださん」 「うぅ、な、なぁに、」 「あなたは優しいね。」 馬鹿な上に馬鹿がつくほどお人好しで馬鹿がつくほど優しい人。 時折そのすべてが鬱陶しくて煩わしくなったりすることもあるけれど、きっとそれだから小松田さんなんだろう。 愛すべき愚鈍だと、しみじみ思う。とても本人には云えないが。 「でも大丈夫だから」 知らないからこそ云えるのだ。忍になることの本当の意味を、知らないから。 私はそれを知っている。知ってしまった。そして、受け入れた。だから泣かない。 つまり、私が泣かないことを小松田さんが嘆くのはお門違いの勘違いということ。 なのに、腹が立たない。 不思議な気分だった。 「ありがとう、小松田さん」 小松田さんの優しさが嬉しくて、だから私は少しだけ泣いた。 (哀しいからとか辛いからとかじゃなくて) (貴方の優しさに) (私は泣くの) ----------------------- 小松田くんは、自分の勝手な予想で他人を印象付けて、同情したり尊敬したりすると思いました。相手が否定しても、一度そうと考えたら変わらない。ある種の頑固者だと。 かなりの確率でそれは迷惑がられるけど、時折その猪突猛進さに救われる人もいるんじゃないかなぁ。 今回の子は数少ない、救われた側の子。まだ恋愛感情には発展してないんだぜ。 |