歩く、歩く、歩く。
 しかし歩けどもなかなか目的の人物を見つけることが出来ず、一瞬本気で名前を叫びながら学園中を歩き回ってやろうかと考えた。・・・・・・やったら二度と口きいてくれない気がしたので踏みとどまったけれど。
 仕方がないのでそのまま歩き続けると、やはりと云うべきか、学園裏側の草むらにて愛すべく姿を発見することに成功した。
 時間にして約半刻。(だって広すぎるんだよ忍術学園!)

「やぁ、毒虫野郎と名高い伊賀崎孫兵くん!」

「こんにちは、変態と名高い先輩」

「サラリと放たれた台詞がものすごく酷い!!」

 しかもこっちを見やしねぇ。






礼儀知らずに愛の手を





「ちょっとー!先輩がわざわざ出向いてるんだから、せめてこっちくら見なさいよぅ!」

「恩着せがましい云い方しないでください。今忙しいんで用事があるならあとでお願いします」

「てかあたし変態じゃないよ!フツーだよ!」

「変態が凡人ぶったところで説得力は皆無です」

「そーだ孫ちゃん何探してんの?」

「とりあえず話題をひとつにまとめてください。」

 いやわざとなんだけどね。
 ごめんごめんと謝りながら、心の中で呟く。だって孫ちゃんの怒った顔が見たくてちょっかいかけてるとこあるし、あたし。むしろ怒られたくて?(おいおいあたしゃーマゾかよ!)

 ともあれ、あまりにも話題を振りすぎなあたしに痺れを切らした孫ちゃんは漸く押し殺したような怒鳴り声とともにあたしを振り返ったわけで。
 にんまりと笑うと、孫ちゃんは呆れたようにため息をついた。

「・・・それで、何の用ですか?」

「うん、あのね、実は孫ちゃんにプレゼントがあるの!」

「もういいですね?失礼します」

「うおーいまさかの切り返し!会話のキャッチボールがうまくいってないよ!?せめて『なんですか?嬉しいなぁ先輩が僕にプレゼントだなんて!』くらい可愛げのあること云ってくれてもバチ当たらんし!」

「普段から大暴投な先輩に云われたくないです。しかも何簡単にハードル高いこと云ってるんですか無理ですよ」

「あっさり断言!!」

 ちきしょう目の前が霞んできたぜ。これは涙なんかではない泣いてなんかいない断じて!(でも云ってるうちに泣けてきた!)

 あんまり怒らせすぎるとさすがの孫ちゃんも口をきいてくれなくなるので(これは意外とダメージがでかい)、普段ならばこの辺りで引き返すところなのだけれど。
 今日のあたしはいつものあたしとはちょっと違うのだった!

「むっふっふ」

「気持ち悪い笑い方しないでください気持ち悪いから」

「二回も云いくさったよこの子は!!?ああ、私の繊細なガラスのハートが悲鳴を上げる・・・・・・」

「防弾ガラスのくせして何云ってるんですか」

「泣くよ?」

「・・・・・・で、何ですか、多分要らないけどプレゼントって」

「一言余計だっつーの。でもそんなこと云って、何か聞いたら絶対欲しがるのよ」

「だから何ですか」

「あたしの愛一生分」

「僕も人間ですから怒るときくらいあります」

「ちょ、ウッソ何その反応・・・!今までにない新しい反応のおねーさんドキドキしてるわ!」

「そんなんだから変態なんて呼ばれることにさっさと気付け・・・・・・!!!」

 ああほら、あたし孫ちゃんのこういう表情が大好きで仕方ないの。なんていうか、思わず抱き締めたくなる可愛さ・・・・・・もはや孫ちゃんの可愛さは犯罪級。第一級犯罪者。あたしと云う名の愛の牢獄に閉じ込めてしまいたい・・・!!(口にしてないのに孫ちゃんに『いい加減にしないと訴えますよ』なんて云われてしまった。こ、心を読まれた・・・!?)(違)

 と、それはまぁ今は置いといて。
 今日のあたしがちょっと違う理由をそろそろお見せしよう。

「半ば本気だけど、今は冗談ってことにしといたげる。本当はねー・・・・・・」

 疲れ切ったようすの孫ちゃんは、あたしの冗談と云う言葉にこの上なく安堵したようにため息をついた。そこまで嫌かよ!いいけどね・・・だって嫌よ嫌よも好きのうちってよく云うし!
 ついでに心底迷惑そうな視線をスルーして、あたしは懐から例のモノを取り出した。

「じゃーん!」

 例のモノ、とは。


「ジュンコ!!」


 そう、孫ちゃんの愛蛇のジュンコちゃんのことだったのだ。
 先に云わせてもらうと、孫ちゃんの困った顔を見たいがためにあたしが隠しておいたとかではない。さすがのあたしもそこまで腐ってないさ。確かに孫ちゃんの困った顔は思わず押し倒したくなるほど魅力的だけど、基本的に笑っててもらいたいしね!

「探したんだよジュンコ!!ああよかった・・・・・・!!!」

「今日は何故かくの一教室のほうにきてたんだよ。他のくの一の子が騒いでるから何かと思ったら、ジュンコちゃんだったの」

「ありがとうございます先輩!いつもは傍迷惑な人でホントどうしてやろうかってくらいの変態だけど、たまにはいいことするんですね!」

「孫兵くん、素直は美徳かもしれないけどもーちょっと包み隠してくれないとあたし本気で泣きたくなっちゃうかな?」

「よかったジュンコ・・・さぁ、みんなのところへ帰ろうね」

「驚くほど鮮やかにスルーされたこの衝撃!」

 せめてジュンコちゃんに向ける笑顔の十分の一・・・・・・いやこの際百分の一でもいいからあたしに向けて欲しいと思うあたしは間違えてはいないだろう。(あまりに低い数に涙が出るね!)

 でもまぁジュンコちゃんが戻ってきて孫兵も嬉しそうなので、とりあえず良しとしよう。
 いつものようにジュンコちゃんを首に巻きつけ飼育小屋に向かう孫兵の後ろ姿を眺めながら、ぼんやりあたしは思うのだ。あーホントあのツーショットって和む・・・。

 なんてちょっとニヤニヤしてたらいきなり孫兵が振り返ったのでそのにやけ顔を見られてしまった。きっとあたしはこのときの孫兵の顔を忘れない。軽くトラウマになりそうです。

「あの、とりあえず謝るから無言でその顔は止めて・・・」

「・・・すみません、云おうとしてた言葉が猛烈に引っ込みました」

「ホントごめんなさい」

「・・・まぁ、いいですけど・・・。先輩、ちょっとそこで待っててください」

「え?」

「時間ないなら無理にとは云いませんが」

「んんん時間なら有り余ってるけど!・・・なんで?」

 あたしが引き止めることなら毎度のことだけど、孫兵に呼び止められることなんてほぼないに等しい。というか今までそんなことありませんでした、超笑顔。
 自虐はいいとして、思わず問えば、孫兵は少し気まずそうに目をそらしてぼそぼそと云った。

「・・・・・・昨日学園長のお使いで町に行ったとき、菓子を買ったんです。悪くするのもあれなので、先輩食べてください」

「え、結婚してください?」

「やっぱり待たなくていいですむしろ帰れ」

「じょ、冗談なのに・・・!」

「性質悪いんですよ先輩の冗談は」

「悪かったから・・・!」

 未だかつてここまで真剣に誰かに謝ったことがあっただろうか、いやない。(反語)
 平謝りの勢いで謝るあたしにもはや先輩としての立場や威厳などなかった。あれ、いつのまにこんな低い位置に来ちゃったのあたし?
 まぁ疑問に思っても仕方ない、あたしはこのあとの予定がないことを頭の中で確認しながら、再び飼育小屋に足を向けた孫兵の背中を見送った。

「ジュンコを見つけていただいたお礼です」

 小さな声で、恐らくあたしには聞こえないだろうと踏んで発したであろう一言を実は聞いてしまっていたあたしは、顔の筋肉がどうしようもなく緩むのを止められなかった。


「だから好きなんだよなぁー!」










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書きたいことを書いたらあとどうすればいいのかわからなくなって、随分とオチを悩みました。結局こんな終わりかよ、と思いつつ、これ以外思いつかないので終わらせてみる。

↓は最初は本文に入れてたけど終わらなくなったので適当におまけにしちゃった部分です。ほーら最後の部分で面倒になったのがバレバレさ!(殴りたい★)





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【オマケ】(というほどでもないもの)



「でねっでねっ、あたしがお茶淹れてあげて、一緒に飲んだの!」

、お前人の話聞いてないな。俺は今忙しいと云っている」

「何よ、親友の話より宿題のほうが大事なわけ?」

「内容によりけり」

「じゃあ聞きなさい」

「お前には空気を読めない馬鹿女の称号をプレゼントだ」

 同日、夕刻。
 は自称親友の食満のところに足を運んでいた。目的は勿論本日の孫兵とのラヴラヴティータイム☆(フィルター)のことを話すため。
 彼女が孫兵と話した日は必ずこの被害に遭う食満は、心底関わりたくないオーラを出すのだが、生憎それがには通じない。仕方がないので聞いた振りして聞き流すのが彼の常だった。
 何故なら、そんなもの理由は決まっている―――面倒だから、と云いたき気もするが、この場合そうではない。

「・・・なあ、くっつくならさっさとくっつかないと、後悔するぞ」

「? 誰と誰が?」

「話の流れからしてお前と伊賀崎だろうが!」

 きょとんと目を瞬いて不思議そうに首を傾げるに呆れて、食満はがくりと肩を落とした。ちなみに、がいる間は五月蝿くて集中出来そうにないので宿題は諦めた。
 数秒の沈黙のあと、漸く食満の台詞の意味を理解したは、面白いほど顔を真っ赤にしてばかすかと食満を殴り始めた。

「やっ、やだからかわないでよ孫兵があたしのこと好きなわけないじゃないの!そりゃー好きになってもらいたいとは思うけど!」

「いでだだだだお前やめろ地味に痛ェ!」

「馬鹿馬鹿馬鹿食満トメ!」

「云いすぎだ!食満トメ!?それ名前を略してるのか!?というか馬鹿に馬鹿と云われる筋合いはない!!」

「ああでもそれが実現出来たとしたらどうしよう!嬉しすぎる!」

「人の話を聞け!!殴るのやめろ馬鹿!!!」

 結局この日が食満の部屋を去ったのは、委員会を終えて帰ってきた同室の善法寺伊作に宥められた約一刻後だった。
 が去ったあとには、ボロボロになりながら今後の友人関係について真剣に考える食満がいた。合掌。



 後日。
 相も変わらず孫兵にアタックするの姿が目撃されるのだった―――・・・。


「孫ちゃん、好きだよ!」

「―――・・・!!?」

「? 熱あるの?顔赤いよ孫ちゃん」

「なっ、なんでもありませんよ!!」





* * * * *

どこで終わらせればいいのかわからなくなったのは秘密です(´∀`)(こらァァァァ)
何で食満かっていうと好きだから。書きたかったから。でもキャラを掴めてない感が溢れてます。(最悪だ)

孫兵は男前で格好よすぎるよな・・・三年生のなかで一番好きな子です。


20100401 再録