北風と一緒に、私を攫ってください。






君とならばどこへでも





「ねぇミッキー」

「お前の発言はいちいち何かしらに引っかかりそうだな」

「あのね、提案なんだけど」

「無視か」

「うん」

「聞いてるのか聞いてないのか・・・・・・いや、やっぱりいい。それで、なんだ」

「そう、それでね」


 云っては三木ェ門の手を掴んだ。あまり高くない彼女の体温が、三木ェ門には心地良い。
 はその繋がれた手を三木ェ門の目線の高さまで持っていき、不審そうにそれを見る彼に静かに告げた。





「このままどこかに逃げませんか?」





 何の冗談を、と云おうとして、の唇により遮られる。触れるだけの口付けは、それだけで三木ェ門から言葉を奪うには充分だった。

 視線がかち合う。
 の眼は真剣だった。だから三木ェ門は、茶化さず思案する。


「・・・・・・少なくとも、今は逃げられないな」

「どうして?」

「理由がないから」

「私が逃げたいから、というのは理由にはならない?」

「理由だけど、それじゃあ足りない」

「どうしたらいいの」


 は食い下がる。普段の、どこぞの体育委員長を思わせるような騒がしさは鳴りを潜め、今三木ェ門の目の前に立ち彼を見上げるは酷く静かだった。

 らしくない。

 何もかもを理解しているような響きを持つこの言葉が三木ェ門は好きではなかったけれど、思わずそう思わせるくらいこのらしくなかった。必死に何かを掴もうとしているような、そんな印象を受ける眼をしていた。





 普段よりも幾分優しさをたたえて名前を呼ぶ。何、と応える彼女の返事は、ぶっきらぼうにも思えるがしかしちゃんと優しいことを三木ェ門は知っていた。


「何故逃げたい?」


 才色兼備。
 前途有望。

 そんな向かうところ敵なしである彼女が何故逃げたいなどと云い出すのか三木ェ門は知りたかった。


「―――試してみたいの」


 ぽつりとは呟いた。油断すれば聞き逃しそうな声量に三木ェ門は神経を集中する。

 未だに手を繋げたまま見つめ合う、彼女の眼は情熱的でとても美しかった。








「私は三木がいればほかのものは要らない。三木以外を置いてどこまで逃げられるのか、私はそれを試したい」








 ああそうか、それならば。


 ともすればそう答えてしまいかねないの視線を、けれど三木ェ門は反らせなかった。動くことを渋る己の唇を叱咤し、彼は声を絞り出す。


「それでも」

「駄目なのね」

「云っただろう、少なくとも今は、と」

「云ったわ」

「だから今は駄目だ。しかし


 空いている一方の手をの頬にやる。仄かに上気した温度には愛しさがこみ上げてきた。今すぐ口付けたい思いをこらえて、云う。





「これから先に逃げたいとお前が思い続けるのなら、もしその思いを堪えられない日がくるのなら、あるいはその時は」





「逃げてくれるのね」





 口付けは肯定の意に等しかった。










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ミッキーて呼びたくて書き始めたんですけど、なんやら最終的にはわけのわからない方向にッ!(致命的)(でもよくある)