天気のいい休日、三木ェ門はいつものように町へ繰り出していた。
最早待ち合わせの定番となった茶屋への道すがら、珍しく市が開かれていたので、まだ待ち合わせまで時間があることを確認し立ち寄ってみた。
こぢんまりとした市ではあったが、なかなかどうして質は良い。
何品か手に取ってみて、三木ェ門は関心した。自慢でないが三木ェ門の育ちは良い方だ。高価な渡来品を目にすることなど珍しくもなかった。
しかし、高価とは云わずとも質の良いものがこうも並べられていると、買わなければ申し訳ないような気がしてしまう。これも育ち故の気性なのかもしれない。
しかもタイミングのいいことに、これから会う人物には友愛以上の愛情をもっているのだから――例え三木ェ門の一方的な想いであれ――、やはり買わないのは失礼だろう、と三木ェ門は結論付けた。
結局それから四半刻悩んで選んだのは、品の中でも一際輝き三木ェ門の目を引いた簪だった。さすがに宝飾品ではないが、色鮮やかな硝子細工があしらわれた美しい品で、柄の部分の黄金色は少しだけ三木ェ門の髪に似ていた。
代金を支払い、再び茶屋へと歩き出した三木ェ門は、これを付けた彼女を思い浮かべてにやけが止まらなかった。傍からみたらただの危ない人である。が、そんなことは気にもしなかった。今三木ェ門の頭にあるのは、愛しい彼女へこの簪を渡したときの反応だけである。
特別なことがあったわけでもないのに、と驚くだろうか。
あの笑顔で受け取ってもらえればいいのだけれど。
まさか受け取ってもらえないことはないだろう。云々。
そんなことを考えていたら、いつのまにか茶屋はすぐそこまで近付いていた。しかも彼女はもうそこに座っている。しまった、と少し早足に近付けば、彼女は顔を上げこちらを向いた。気配で気付いたらしい。
そうして。






煌びやかな簪の行方は





(簪よりも君が煌びやかに微笑うから)
(僕はこれを渡すタイミングを失ってしまった!)



(じゃあこれは、いつか君の眼が世界を映すようになったら渡すことにしよう)

(そのときは、きっと今日の話をしなくては)










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三木長編ヒロインは盲目少女。


20100401 再録