愛し君へ、もう届かない愛を謳う




いつだって手に入れることより失うことのほうが簡単で、そうして愚かなことに、いつだって失ってから初めて失ったことに気付くのだ。
なんて浅はか。
それを咎めてくれる人など居らず、私はひとりで声を殺して泣くしかない。
誰もこの声には気付いてくれないし、私はたすけを求めていたわけでもなかった。ただただ胸に大穴があいたような喪失感と虚無感に絶望していたのだ。
愛するが故に傍に居られなくなるだなんてあまりに悲しすぎて。
愛ではなくて別れを告げなければならないことが悲しすぎて。
己は忍なのだと自身に云い聞かせることが悲しすぎて。
傍に居たいのに愛したいのに己は忍だから傍に居られないし別れなければいけない。

(君の涙が忘れられない)

苦しそうに笑う君は、きっと聞き分けがよすぎた。
もっと我が儘でよかったのに、君ときたら、笑って頷いたのだ。泣きそうな笑顔で、わかった、と。呟いたのだ。

(私が突き放さなければ、あるいは……)

そんなことを考えたところで後の祭りだった。
私は別れを告げてしまったあとなのだ。

彼女はもう、傍にはいない。





(ならばせめて祈らせて)

(あなたの幸福を)










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悲恋な利吉つぁん