目隠しの森




「ちょっと仙蔵、これ何のプレイよ」
「妙な言い方をするな。もうすぐ外してやるから我慢しろ」
 私の恋人は酷く身勝手だ。なんの前触れもなくいきなり部屋を訪ねてきたかと思えば――恋人なんだからそれくらい許されたことだろう、なんていけしゃあと云うのだ、こいつは――、今度はいきなり手拭いで目隠しをしてきた。ちょっとあんた何に目覚めたの。じたばたと抵抗しながら云うと、思いっきり頭を殴られた。ドSである。
 しかしこういった場合、仙蔵に何を云っても無駄なのを一番よく知っているのは私なわけで、仕方なしにされるがままにしてみた。すると今度はそのままの状態で私を抱き上げ――因みにお姫様だっこなんて可愛げのあるものではなく、米俵のように肩に担がれた――、仙蔵は微妙に上機嫌に鼻歌なんぞ歌いながら外に出た。
 ちょっと待て何事だ貴様。夕暮れ独特の空気を感じながら抗議する。一体、私にはこいつが何をしたいのかさっぱりわからない。何を云っても、もう少しだ、と返ってくる始末。さっきから何回もう少しって云ってるんだ少しってどんくらいだ。
「ついたぞ」
「いてっ」
 セリフと共にその場に放り投げられた。いくらなんでもそれは酷くないだろうかと思うけど、まあ、慣れというのは怖いもので。あと仙蔵の性格を考えれば放り投げられたのはまだましなほうなんだと自分に言い聞かせてみた。さらにはもう少し可愛らしく痛がれんのかなんて云われて正直殺してやりたいくらい腹立った。そういう女を好きになったお前が悪い諦めろ。怖くて云えないので心の中で毒づいてみた。切なくなったのは秘密だ。
「もう目隠し取っていい?」
「いいぞ」
 お許しが出たのでゆっくりと手拭いの目隠しを外し始めた。パラリと目の前から手拭いが落ちると、眩しい紅が瞼の上から目を刺した。急に目を開けるのは眼球に負担がかかるので、しばらく目を閉じたままじっとする。私の隣に立っているらしい仙蔵は、どこか嬉しそうに笑っているようだった。
 漸く光に慣れ始めたところでそっと目を開けて。

 広がる世界に、ため息が出た。

「綺麗」

 辺りに広がる花、花、花。色鮮やかに咲き乱れる花畑がそこにはあった。
「すごい、綺麗!」
「昨日、実習の帰りに見つけてな」
「綺麗綺麗―――!」
「お前は花が好きだから喜ぶだろうと」
「すごーい花しかない!」
「・・・・・・・・・・・・。」
「あっこの花って確かすんごい珍しいんじゃないっけ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「うわっこれ薬になるやつだ!摘んでいいかな?」
「・・・・・・おい―――・・・」
「ありがとう仙蔵!すごく嬉しい!!」
 花から意識を仙蔵に移すと、何か云いかけていたような仙蔵の動きが止まった。何、なんか云いかけなかった、と問えば、もういい、と呆れたように笑いながら抱き締められた。我が恋人ながら、相変わらず謎な人物な立花仙蔵である。
「気に入ったなら何よりだ」
「うん。でも目隠ししてたから道わかんないじゃん、もう来れないよ」
「心配するな、来たいときは私に云え。いつでも連れてきてやる」
「わーやったーじゃなくてさぁ」
「喜べ、
「何を」

「目隠ししたお前はなかなかそそるものがあったぞ」

「欠片も喜べねェェェェ!!!!!」

 この変態が!!

 おおよそ花畑には似つかわしくない叫び声が響き渡った。
 今度は自力で探して、また来ようと思う。










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仙蔵さまには妙な性癖があると思います。(妄想)