ぼたぼたと滴る雫を止める術など最早残されていなかった。
 そして、朦朧とする意識の中、悟る。

 私は死ぬのだ。






魂の花





 息が上がる。肩で呼吸をするのは体力を使うからいやなのに、それでも止まらない。動悸、息切れ、ああ、そしておまけに眩暈。もうだめだ、と本能的に感じ取る。諦めではない。事実であり現実だ。それはこの己から流れ出た血が物語っている。
 赤黒く凝固した血は鮮血よりも生々しい。他人事のように考えて、しかしこの赤黒い血液がつい先ほどまで己の身体を駆け回っていたことに気付いた。


(死ぬ)


 走馬灯と云うのは嘘だ。ぼんやりとし始めた意識の中でも私はそう思った。だいたい、一体誰がそんなことを云い出したのだろうか。きっと死に近付く人はそんな言葉を遺すことは出来ないのだから、誰かが適当なことを云ったに違いない。
 ああ、私はその人を恨みたい。走馬灯でもなんでも、・・・・・・。



「おい」



 夢だろうか。それともこれが走馬灯なのか。
 耳に届いたのは、愛しい人の声だった。


「おい」


 目蓋が重い。しかし、むりやりこじ開ける。幻でもなんでもいい、もし、そこに彼がいたのなら。この目に映るというのなら。


「もんじ、ろ」

「死ぬな」


 いた。そこにいた。
 泣きそうになる。だって文次郎が泣きそうな顔をしているから。

 でも、無茶を云う、と思った。
 そう云って笑いたいところだけど、生憎もう私にはそんなふうに笑う気力もなかった。終わりが近いのだ。


「死ぬな」

「・・・へへ」

「ばかたれ、笑うな」

「ご、め・・・」

「喋るな」


 この世に神様や仏様がいるのだとしたら、私は感謝したい。
 任務だと託けて多くの人を殺めてきたこの私に、最期にこの人に逢わせてくれたことを。


「も、んじ」

「喋るな」


「ありが、と」


 黙々と応急処置を施していた文次郎の手がピタリと止まる。おそらく意識的に私の顔を見ないようにしていたのだろうに、漸く私を見る。ばちりとあった文次郎の瞳は揺れていた。
 何を云う、と云っていた。そんなことを云うな、とも。

 これで終わりみたいなこと、云うな、と。


「先、行くね」



 ぶっきらぼうでも本当は誰よりも優しくて、伊作のこと馬鹿に出来ないくらいのお人好しなあなたが好きでした。

 面倒くさいと云いながら、結局はなんでも手伝ってくれるあなたが好きでした。


 私を好きでいてくれたあなたを愛していました。


 先に行ってしまうことをどうか許してください。

 それでも、最期にあなたに逢えて、よかった。



 人生とは思っている以上に呆気なく終わるもの。
 そんなものさ、と数時間前の私は諦めていたはずなのに。





本 当 は も っ と あ な た と い た か っ た 。





「い く な よ」





 少しフライングするだけだから、先で待っているから、どうか、どうかあなた。


 ―――泣かないで。










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忍者の学校なんだから、上級生になれば忍務とかも当然与えられると思う。
で、当然、その中で死ぬ人も出ると思う。

潮江に好きになってもらえたら、本当に幸せだと、思う。
きっと潮江は、好きになった人をずっとずっと好きでいてくれる気がします。それこそ、死ぬまで。