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息を吸うことと同じように、私は人の殺し方を覚えた。最初に握ったのは脇差しだった。ただ、殺せと云われた相手の背後にまわって刃を押し当て、そのまま撫でるように引き抜けばよかった。一瞬視界が真っ赤になって、それが血だと気付いて気分が悪くなった。生暖かい。というより、温い。自分の中に流れるそれもこれと同じかと思うと吐き気がした。けどそれだけだ。殺すことへの罪悪感だとか背徳感だとかはなかった。だって、死ぬ方が悪いのだ。殺される方が悪いのだ。弱いのが、悪いのだ。殺せと私に命じた人に、そのとき感じたありのままを話した。すると彼は、それでいい、とだけ云って、褒めることも微笑むこともしなかった。だから、彼にとっては当たり前のことで、疑問に思うことは何もない。それでいい。彼の肯定が、私のすべてだった。 「組頭」 「なんだね?」 「今日、子供を余計に殺しました」 「そうか」 「殺す直前に云われました」 「何を」 「何故、父を殺した、と」 「そんなことを」 「だから私、云いました。お前の父が弱いせいだよ、と」 「その通りだな」 「でも、云われました」 「なんと?」 「狂っている、と」 「ふぅん」 「組頭」 「なんだね」 「私が狂っているのなら、あなたは何なのでしょうね」 「さぁね。生憎私は狂ってなどいないけれど」 「そうでしょうか」 「そうだよ。そして、お前もね」 (ああまたそうやって私を肯定するから!) (私はどんどん狂ってしまう) (あなたが私を肯定するそのたびに) (あなたに)(狂うのだわ) -------------------- あなたのために殺し、 あなたのために生きる 私の心はあなたのために |