「何、結局生きてるじゃない」


その物言いは、まるで彼女が生きていることを残念がっているようにも取れるが、フレデリカはそうは取らなかった。彼女はただ事実を口にしただけだ。少しだけ意外そうに。そうして僅かに、嬉しそうに。

皮肉なものだと思う。
今までは自分の生きる理由を見出すことが出来ずに足掻いて苦しんで、いっそ、とも俄かに考えていたというのに、口を吐いたのは強い生への願望。生きたい、だなんて、今思えばよく云えたものだ。


「だけど、ね、フレデリカ。云った通りだったでしょ?」


銀の長い髪を柔らかく揺らしながら微笑む彼女はさながら天使だった。つい最近、本物の天使を目にし、彼女とあれが似ても似つかないことはわかっているのに、それでも彼女は天使に似ていた。純粋で穢れを知らない気高さ。フレデリカが手を伸ばしたって掴めないものだ。もっとも、フレデリカがそれを望むかは別問題だが。

望むことが罪ではない。望むことを畏れるな。
最初にフレデリカにそう云ったのは彼女だった。だから余計にフェイ・イに同じことを云われて腹が立った。
わざとらしく溜め息を吐き、皮肉気に口を歪ませる。


「……アンタも大概、嫌味だわ」

「あなたは大概意地っ張りよね」


心底可笑しそうに云うものだから、フレデリカは怒るのも馬鹿々々しくなってしまった。いつだって彼女は彼女らしい。フレデリカは彼女のそういうところが羨ましかった。決して口には出さないけれど。


「フレデリカ」


視線をぶつける。彼女の琥珀が優しかった。


「今、生きてるね」

「―――そうね」


目を閉じた。
次に世界を瞳に映したとき、彼女はどこにも居なかった。






大切なもの





(あなたの不安定が嘘ならよかった)










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フレデリカの、エレクトラ的存在に憧れる

20071203
20100429(再録)