|
俯いたわけではない。ただ少し下を見ただけだった。 彼があたしの前を歩くなんていつものことだし、特に変わったことはなかった。 なのにものすごく不安になって、どうしようもなく胸騒ぎがしたのだ。だからあたしの取った行動は殆ど反射レベルのことで、こんなことをした自分に驚いた。唖然としていたら、どうした、と不思議そうに云われてハッとした。 「なんでも、な、い…」 「じゃあ、この手はなんだよ、うん?」 あたしはデイダラの腕をがっちり掴んでいた。それも、服にシワがつくほどの力で。慌てて離せば、やはり掴んでいた場所なはしっかりとあとがついてしまった。 「?」 なんだか落ちつかなかった。なんでもないようなことが不安になって、足元が覚束なかった。何か云わなくては、と頭では思うものの、声にならない。そんなあたしをデイダラは優しく見返してくれた。 無性に、泣きたく、なった。 「あ、…!?」 「ご、ごめ…」 一度零れてしまった涙は止まることを知らずに溢れ続けた。 ぼろぼろとみっともなくあたしは泣いた。 遠くなっていまいそうで。 手の届かない場所へ行ってしまいそうで。 置いていかれてしまいそうで。 ―――止まらなかった。 「、泣くなよ」 ねぇごめんね。 あたし、泣くつもりなんかなかったのよ。 「、」 ただ、どうしたかわからないの。 なんで泣いてるのかわからないの。 「デイダラ」 ねぇお願い。 「デイダラ、」 ―――あたしを置いていかないで。 ―――遠いところへいかないで。 (眩しいくらいに儚い背中) (お願い) (ひとりにしないで) ----------------------- 愛してるから、 だから、 ねぇ、 |