あの日見上げた空はグロテスクに赤かった。昼間の青空から夕刻への紅のグラデーション、一際夕暮れの赤が眩しかった。血の色みたいだと呟くと、縁起悪ィこと云うなと咎められた。これから戦いに行くのだから、そんなことを云うなと。ごめん、笑いながら云ってしかし頭からはこの空が血色であると云うイメージが離れてくれなかった。ただひたすら、空は赤い。
「オイラが帰ってこられなかったらのせいだぞ、うん」
「変な責任押し付けないでよ」
「変なこと云うが悪い」
「責任転嫁よ」
「うっさい、うん」
部屋で準備を整える背中を、扉に寄りかかりながら眺めた。私はこの彼が任務に出かける前の時間が大好きだった。お気に入りの粘土細工を準備して、起爆粘土にチャクラを混ぜて。時折、自慢げに作品を見せてくる。くだらない、なんて云いながら私は笑うのだ。
「よし」
「準備終わった?」
「ああ、もう行く」
「トビは?」
「……あー、あいつ何やってんだ、うん…」
「呼んでこようか」
「いや、外で待ってりゃくるだろ、うん」
まったく何やってものろまだな、なんて悪態吐いていても、本当はトビのそんなところに救われているのを私は知っている。
サソリがいなくなって一番落ち込んでいたのは他でもないデイダラだった。私だって悲しかった。だけどデイダラは、それ以上に痛かったのだ。心を許した相方が、負けるはずないと思っていた人間に殺された。痛くて悲しくて、そしてトビと新しいコンビを組んで。最初こそ本気で嫌がっていたけれど、今は口で云ってるだけだとわかる。たまにドジを踏むしクールじゃないけど、そういうところがいいのだ。
思わず噴き出すと、何だよ、と睨まれた。なんでも、と返せば嘘つけ、なんて云われたけれど、私はまた笑う。

―――ねえデイダラ。私はこの時間が大好きだよ

「帰ってきたら覚えてろよ、うん」
「さぁ?」
「……オイ」

―――不機嫌な顔も

「帰ってきたら、甘ーいパンプキンタルト焼いてあげるからね」
「! すぐ帰るぞ、うん!」

―――子供みたいに笑う顔も

「無傷だったらね」
「……無傷は難しいだろ…うん」

―――悲しそうに眉を顰めた顔も

「うふふ、冗談よ」

―――ねえ
   大好きだったのよ

くだらないことで笑って泣いて喧嘩して仲直り、そんな繰り返し。日常。
いってらっしゃい、おかえりなさい。いってきます、ただいま、その繰り返し。日常。
大好きだよ、愛してるよ、そんな繰り返し。日常。
日常はあまりに馴染みすぎていて私は錯覚していたのだ。明日は必ず来るのだと。明けない夜などないのだと。
だから私は笑って云った。

「はやく帰ってきてね」

これが私たちの最後の会話だと知る由もなく、じゃあねと手を振っていた。

「じゃあな、

これが私たちの最後の会話だと知る由もなく、じゃあなと手を振っていた。



あなたは本当に帰ってきませんでした
永久に還らぬ人となりました

まだまだ伝えたいことがありました
まだまだあなたの傍にいたかったのです

悲しくて痛くて苦しくて、みっともなく声を上げて泣きました
あなたのかわりにもならないけれど自分を抱き締めて泣きました
肩に爪が食い込んで血が流れました

まるであの日の空の色でした


その日見上げた空はグロテスクに赤かった。昼間の青空から夕刻への紅のグラデーション、一際夕暮れの赤が眩しかった。血の色みたいだと呟くと、縁起悪ィこと云うなと咎められた。

私はその日の私を殺してやりたかった。
過去は取り消せないと知りながら。






あの日の空は赤かった





(後悔が終わらない)

(赤なんて大嫌い)

(きっとあの空は予言だった)










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おれのいとしのでいだらをころしたさすけが憎い…(ギリギリ)