時折ふらりと姿を現してはご飯を作れと偉そうに云う。面倒くさいと率直に云えば、子供みたいにツンと拗ねる。一体いくつだ、お前。てゆうか可愛い髪型綺麗な髪しやがって、これはもう女の私に対して喧嘩を売っているとしか思えない。ああ、しかも肌もすべすべだし、なんだこれ、神様アナタは何て不公平なの!

「何やってんだ、うん」

「デイダラの犯罪について考えてる」

「ありすぎてわかんねーだろ、うん」

「とりあえずは容姿がね」

「は?」

「いや口にしたら余計ムカつくから云いませんけどね」

「あそ・・・。どうでもいいけど腹減ったぞ、うん」

「おッ前はホントに自分の欲望に忠実だな!」

「バッカお前オイラが欲望に忠実だったら今頃二人でベッドの中に」

「さァァァてメインは肉じゃがでいいかなー?」

笑いつつ目は笑ってなかったデイダラは多分本気だ。流されてなるものか、と私は立ち上がってわざとらしく遮る。(ちょ、今あからさまに舌打ちしたよコイツ!)

何だかんだいって、正直デイダラが来てくれるのは嬉しいし、楽しいし、飽きない。たまにしか来ないくせに来たら来たで我が儘放題唯我独尊を披露してくれるこんな人でも、デイダラならいいか、とか思う辺り私も大概末期だ。

二人とも明確に言葉にしたことはない。多分これからも言葉にすることはないのだと思う。勘だけど。私はもとからそんなタイプではないし、デイダラにしたってそうだろう。それに、仮にどちらかが口にしたらこの関係は壊れてしまうと思うのだ。私はここから動くつもりはない。けれどデイダラは、ここには居着かない。だから、私たちは一緒にはいられない。時折逢うくらいが丁度いいのだ。

(そう云い聞かせて、)

我慢なんかしていない。私は受け入れている。諦めているわけじゃない。悲観しているんじゃない。私はそこまで傲慢じゃない。

こうして逢えているだけ、私は、幸せなんだ。


*****


「出来たよー」


気を取り直して二人分の食事を盆に乗せ、リビングへ向かう。いつもならここで喧しく駆け寄ってくるデイダラが、何故か今日はソファーに座ったまま動かない。そこまで持っていけってか。いい度胸だコノヤロー。

「ちょっとデイダラ?」

「・・・・・・・・・」

「・・・あれ?」

ソファーにもたれかかり、規則正しく上下する胸。普段必ず羽織っている外套ははずして適当に丸めて放置されていた。

「・・・・・・何よ、もう・・・」

ご飯作れって云ったのは自分のくせに、出来上がったら寝こけてるってないだろ。まったく呆れてものも云えない。こんなにぐっすり、しかも無防備に。

長いまつげも白い肌も、私なんかよりずっと魅力的で、なのにどうしてこの人は。
盆はテーブルに置いてソファーの縁、デイダラの隣に腰を下ろす。

ねぇ、デイダラ。

―――アナタいつまでここに来てくれるの?

「・・・・・・・・・うげ」

「うげ?」

「まずった、寝てた」

「涎垂らしておかーさーんて寝言云ってたよ」

「うそつけ!」

ーって云ってたよ」

「・・・・・・・・・うそだろ、うん」

「あれ、なんか自信なさ気じゃない?」

「あーうっせ、飯!」

「お前はどこの我が儘亭主か」

云って後悔した。馬鹿だな私。
デイダラに、一瞬でもこんな顔させるなんて。

「―――の料理は絶品だからな」

「・・・・・・お世辞云っても、これ以上のサービスはないからね」

少し笑って、もうその話題には触れない。
ご飯を食べよう。折角腕によりをかけて作ったんだ、冷めてしまったらもったいない。熱いうちに、さぁ、そうして。

(忘れてしまいましょうか?)

いっそ総て忘れてしまえたらよかった。出逢ったことも過ごした日々も、この気持ちも。

夕方近くになって再びデイダラは外套を羽織った。赤い雲。よくないものを連想させるそれが、デイダラにはよく似合う。その赤はまるで、まるで、血の色なのに。

「あー旨かった、うん!」

「それはよかった」

「また来るぞ、うん」

「・・・・・・うん」

「なんだ、?オイラが帰るのが寂しいのか、うん?」

馬鹿阿呆清々するっつの。いつもの私ならこう云う。今日だって喉まで出かかった。なのに、実際声になったのは予想外の言葉。


「・・・・・・寂しいよ」


まるで自分の声じゃないような弱々しい声。俯いて云ったから今デイダラがどんな顔をしているかわからない。けど、驚いていると云うことは、なんとなく、悟れた。
駄目だ、困らせてしまう。

それは、いけない。

ガバッと勢いよく顔を上げ、私はベーッと舌を出した。

「うそに決まってんじゃん!」

(嘘だよ、デイダラ)

気付かなくていいよ。

またね、そう云って笑うから。

「ほら、はやく帰んないと。呼ばれたんでしょ?」

「あ?あ、ああ、帰るけど」

「何よ、まさかさっきの本気にしてんの?」

うそっつったじゃん、と笑えば、漸くデイダラは笑った。

「じゃあ帰るぞ、うん」

「はいはい、じゃあね」

「・・・・・・素っ気なさすぎるだろ、うん・・・」

「何を期待してんだか」

「別れ際のちゅーとか?」

「さっさと帰れ!!」

「いでっ、殴んなよ、うん!」

「喧しい!」

「あーもーホントに帰んぞ!」

「帰れ帰れ」

―――私は今幸せだから、この程度のうそ、なんともないのです。

(またね、)






うそつき





(自分の心を、私は殺した)










--------------------


20110128 再録