ぴたりと首に。
ひやりと当たる。

「うっふふ」

「笑うな」

喉が揺れた拍子に、皮膚が裂けた。
とろり、真っ赤な血が流れる。
首だから見えやしないけれど、きっと赤くて紅くて朱いんだろう。

「笑っちゃうよ、零崎人識」

「笑うなっつってんだよ、人格破綻者」

「あは、褒めないでよ」

「褒めてねーよ」

私の首を裂いたのは、ナイフだ。
私の首に突き付けられ、押し当てられた、銀を研いだ鋭利な刃物。
零崎人識が押し当てているもの。
私は訊く。

「ね、零崎人識。これで私を殺すの?」

「殺さねーよ」

あっさり返ってきた答えに落胆しつつ、続けて訊く。

「じゃあ、マインドレンデルでも持って来るの?」

「持って来ねーよ」

更に続けて訊く。

「なら、どうやって私を殺すの?」

ナイフに構わず首を傾げると、ぷつ、と音がして、先程よりも深く傷が出来たことを感じた。
首筋を生温いものが伝い、鎖骨に溜まり、収まらなくて滴る。
服が赤く染まる。首の出血は他の場所よりも多いから、ひょっとしたら自分が思う以上に出血しているかもしれない。
けれどまぁ、それはそれで、ありだろう。

「何度も云わすな」

零崎人識は、表情をなくしたまま云った。

「殺さねーんだよ」

ナイフを。
突き付けて。
押し当てて。
そのナイフは。
私の首に。
一筋の傷を作って。
その傷から。
赤くて。
紅くて
朱い。
血が流れて。

「駄目よ、零崎人識」

―――なのに、彼は私を殺さないと云う。

「そんなことは許さない。お前は私を殺すわ」

両手を伸ばし、零崎人識の頬に触れる。冷たい。おおよそ生きている人間の体温とは思えない冷たさだ。
無理矢理に私と合わさせた瞳には、何も映らない。
私さえも。
目の前にいるのに、こんなに近くにいるのに。

「教えてよ、殺人鬼」

頬に添えていた手を下にずらし、私の手はナイフに、ナイフを持つ零崎人識の手に触れた。こちらもまた、冷たい。
握る。
力なくナイフを握る零崎人識の手を、包み込むように、握る。

「どんな気分?」

そして。


「愛してる女を殺すって、どんな気分?」


真っ赤な真っ赤な血が、舞う。
私は笑う。
零崎人識は。
殺人鬼は。


「―――最悪だ」


泣いていた。






君は私を殺し、私は君を殺す





(君は私の肉体を。)

(私は君の心を。)

(それぞれ、愛してしまったが故に殺すのだ。)










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戯言シリーズ大好きです。
人識と出夢くんが大好きです。


20100404