ねぇ、あたしが死んだら、あんたはあとを追って死ぬ?

特別嫌なことがあったわけでもない。
今まで気付かなかった病気に気付いただとかそういうことでもない。
ただ、ふと気になってしまったから、訊いてみた。別に、追ってきてほしいと思ったわけでもなかった。
が、まずかったのだろうか。訪ねた相手は、顔を強ばらせて固まった。

「そんな顔しないでよ」

「するよ」

何、それ。
深く眉間にしわをよせたカカシは、詰め寄るように近付いてきた。そんなに怖い顔をさせるような発言だったろうか。生憎、よくわからなかった。

「なんでそんなこと云うの」

「ちょっと気になったから」

「何があったの」

「・・・・・・近いよ、カカシ」

「真面目に答えて」

額当てもマスクもしていないカカシの素顔は、腹立たしいほど整っている。そんな顔に近付かれ、問い詰められると、いくら見慣れているとはいっても照れるし、普段のキャラがキャラなだけに圧されてしまう。

けれどあたしは真面目だった。本当にふと思っただけなのだ。
いつ死ぬかもわからないこんな仕事に従事する毎日。任務でお互い里にも、最悪火の国にもいないことだってある。自慢ではないが、カカシもあたしも上忍の中ではトップクラスだ。つまり、その分リスクの高い任務も多く舞い込んでくるし、里にとって重要な任務をこなさなければならないことだってある。

任務でひとり、時間があるとふと頭をよぎる考えがあった。
あいつのいないところであたしが死んだらどうなるのだろう、と。
そうすると途端に恐ろしくなる。死ぬことが恐ろしいのではない。カカシを置いていくことが恐ろしい。カカシをひとりにする事実が恐ろしい。

悲しそうな目をするカカシを、思わず微笑んで抱き締めた。改めて思う。あたしはこの人を愛している。

「ごめんね、気にしないで」

「出来るはずないでしょ。気になるに決まってる」

「ごめんね」

傍にいると誓ったのはもうずっと昔のことだ。あれからもう何年も経つのに、あたしたちは変わりながら生きてきたのに、この人のこういうところはかわらない。
優しいのだ。彼はあまりに優しすぎる。

「死なせないよ」

「うん?」

「俺がお前を護るから。死なせない」






さよならの前に





(ありがとうを伝えなければ)
(愛していると伝えなければ)

(明日死んでも大丈夫なように)











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20110128 再録