貧しい家庭に生まれ、食い扶持に困った親に仕方なく捨てられた兄妹の寂しくも美しい物語がある。 幼い私はその物語が大好きで、よく時間があればシスターに読み聞かせてもらっていた。勿論、そのときは双子の弟の手を引いて。 私たちに親はいなかった。所謂孤児というやつだ。シスターの話によれば、ある冬の寒い日に孤児院の入り口に置き去りにされていたらしい。危うく凍死するところだったのを、運良くシスターが見つけて保護してくれたのだそうだ。 だから、物語の兄妹が親に捨てられるというところはとても切なかった。子供ながら、トラウマだったのかもしれない。 ただ、どんなことがあってもお互いの手を離さず信じ合った兄妹愛には感動した。だから私もそうしようと思った。決して弟の手を離すまいと思っていた。 顔も知らない親、暖かく私たち兄妹を育ててくれた孤児院の人。大切じゃないとは云わない。だけどそれよりも、比べものにならないほど大切なのは弟だ。ふたりきりだから、絶対に離れるものかと、私は自分に誓った。そうなのだろうと思っていた。 あの、雨の日までは。 |
そしてグレーテルは消えた
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世界においていかれた日 (振り払われた手の衝撃と) (あの瞬間の喪失感は) (きっと一生消えない) |