怖くない(怖い)

怖くない(怖い)

怖く、ない(ほんとう、は、)

眼を反らさない。

今まで、決して長い付き合いではないけれど、こんな眼で見られたことはなかった。
私が知っている元親さんは、怖い顔してるけど優しくて暖かくて。時々無神経で人神経逆撫でして殴りたくなる。それでも、私の、傍では笑ってくれていた。

今、元親さんが私を見る眼には優しさとか気遣いだとかそういうものは一切ない。
純粋に怒っていた。
それは私に対する怒りではなかったけれど、苛ついた眼で私を睨み付けていることにかわりはない。


怖くない(怖い)


絶対、だめ。逃げない。

私は眼を反らさず、一歩元親さんに近付いた。すると、元親さんが驚いたのがわかった。構わず進んだ。


「怖くない」


頬に触れた。困惑した元親さんにやんわりと微笑んで、今度は両手を伸ばし、彼の頭を抱き込んだ。背伸びをしたって本当は届かないのに、軽く抱けばそのままなすがまま、すんなり元親さんの頭は私の傍にやってきた。


「大丈夫。怖くなんて、ないですよ」


そうだ。怖くなんてない。
どうして、こんな人が怖いだなんて。
こんなに優しくて、
こんなに暖かくて、
こんな、寂しい眼をしたこの人が、どうして怖いだなんて。


「怯えなくていいんですよ」


誰も貴方を拒絶したりしないから。


「泣いていいんですよ」


私が涙を拭うから。


「私が傍に、いますから」


だからどうか。


「そんな顔、しないで」






愛しい人へ










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全部私が包み込んであげる
恐怖も不安も涙も全部
だからどうか、どうか、

どうか。


20100307