夢なら、醒めないでほしかった 。






この胸に残る想い総て





私は今、確かに抱き付いたはずだった。
正直みんながいる前では恥ずかしかったけど、嬉しかったんだから仕方ない。いつもならやらないような、両手を広げて、あの広く逞しい胸に飛び込んだ。

はずだった。


―――ジリリリリ


鳴り響く、電子音。ここしばらくは聞くことのなかった懐かしい音がした。
頭がボゥッとして重い。
意味がわからなかった。
見上げれば、低い天井。
見渡せば、見慣れた私物。

そこは私の部屋だった。六畳の中にベッドと箪笥とテーブル、それに本棚を詰め込んだ部屋。
紛れもない、私の部屋。


(なんで)


無駄に高い天井も、
(佐助、)

無駄に大きな障子も、
(幸村、)

与えられた桐箪笥も、
(お館様、)

奪った化粧台も、
(政宗、)

贈られた、オルゴールも。


(元親、)


何もなかった。
あるのはもとからの私のもの。バイトして貯めたお金で買ったリサイクルの箪笥やら何やら、何もかもが私の、私の、もの。

でも。


(なんで?)


あの人が、いない。
私は、確かに。


(夢、………)


カレンダーを見れば、日付はあの世界に飛ばされた日の翌日で。


―――ああ、あれは、夢?


部屋の配置は変わっていない。
日付はあの日の翌日。


―――ああ、あれは、夢なの?


布団から起き上がる。身体はだるいし頭は重いし最悪だった。
あんな濃くて長い夢をみていたせいだろうか。だからこんなに、疲れているのだろうか。


―――あれが、夢?


ぽたり、と。ベッドに雫が落ちた。
それが涙だと気付くのに時間はかからなかった。
一度溢れた涙は止まることを忘れたかのように頬を伝い、見る間にベッドに染み込んでいく。


「う……」


あれが、夢だと云うのだろうか。

お母さんみたいに世話焼きでときどき育児放棄しちゃう、でもみんなのことを一番みていた佐助も。

衆道を疑いたくなるほどお館様が大好きで、犬みたいで、弟みたいで可愛かった幸村も。

大きな手で私の頭を撫でてくれた、優しくて素晴らしいお館様も。

気持ち悪いくらい意気投合して、まわりに呆れられるくらいに仲がよかった政宗も。


私を抱き締めてくれたあの強い腕も、
私を好きだと云ってくれた唇も、

私が愛した元親も、すべてが夢だと云うのだろうか。


「ぁ、う………ッ」


それなら、この溢れる涙は?
どうしようもなく痛む胸は?
眼を閉じれば駆け巡る思い出たちは?

全部作り物なのだろうか?

あんなに泣いて笑って怒って喜んだ日々はなかった。
決してこちらの世界では味わえないような体験もたくさんした。

それを゛夢゛の一言で終わらせてしまうの?


―――あの人を、夢だと、思えるの?


「ぅあ、あ……ッ」


嫌だ、そんなの嫌だ。

私はあの世界が好きだった。

あの世界に生きる人たちが大好きだった。

あの人が、好きなのだ。

夢じゃない。
あれは夢なんかじゃない。

思い馳せれば苦しいほどに胸を痛めて涙を流せるあの日々が夢だなんてそんなの嘘だ。

だけど。


―――ジリリリリ…


二度目の目覚まし。


(戻って、きたの)


帰ってきた。多分それは、紛れもない現実。



「―――元親…」



呼んでも、あの笑顔も、声も、全部ない。










ねぇ、神様。もしもあなたが本当にいるのなら、どうしてこんな仕打ちをするのでしょう?



(逢いたい逢いたい逢いたい)

(あの人に、もう逢えないだなんてそんなの)

(嘘でしょう?)










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トリップ連載したい


20100307