わたしには正義と云うものが何なのかわからない。そもそも、骸さまの為に働き骸さまの為だけに生きてきたわたしには正義など必要なかったから、そんなもの意味や意義を考えたことなどなかったのだ。
そんなわたしがどうして今更そんなくだらないことを考えているのかと云えば簡単だ。わたしの、わたしたちの前に、正義を掲げて刃向かってくる莫迦がいるからだ。本当にくだらない。

誰かを理由なく傷付けるのがいけない?理由が無意味?ねぇ、じゃあお前たちは何なの?
正義って一体なんなの?
わたしには総てが偽善にみえて仕方がない。
正当な理由を掲げるその行為が莫迦げていて、そしてこの世で最も愚かしいと思う。
正しいことが何なのか。骸さまが総てなわたしにはわからない。強いて云うなら、わたしにとって正しいことは、骸さまのやることなすこと総てなのだ。それ以外に正しいことなど。だから、それを否定された今――勿論、認めてなどいないけど――、"正しいこと"を失ってしまったも同然だ。




「はい」

「逃げなさい」

「嫌です」

「、ねえ君は、」

「煩い、黙れ」


どこか戸惑った様子で話しかけてきたボンゴレの十代目を一蹴する。誰が骸さまをこんなにした人間と口をきくものか。
セイギを掲げる偽善者、愚者。
睨み付け、わたしは広げていた両手を目一杯大きく広げた。
みるな。骸さまをみるな。
―――その目でみるな。


「……、いいから」

「嫌です骸さま、行くならばあなたも」

「わかってください、

「わかってないのは骸さまです。あなたのいない世界など、わたしには虚無でしかない」


だから一人で逃げろだなんて云わないでください。連れて逃げる、共に、ケンやたけぴと一緒じゃなきゃ、わたしは行けないのです。

あなたたちがわたしの世界だから。


「……お前たちの云う正義って何」

「え、」

「なんで骸さまが悪者なの」

「それ、は」

「さっぱりわかんないよ、何が正義で何が悪なの」

「、」

「誰かを傷付けたら悪?理由が利己的で自己中心的なら悪?じゃあお前だって悪じゃないか、骸さまを傷付けた!多かれ少なかれ人は人を傷付ける。無害な人間なんていない。全部誰かの為に、何てそんなの嘘っぱちだわ、だってわたしだって」


そうよ、骸さまのため、骸さまだけのために、と云うわたしですらも。



「―――骸さまの傍にいたい自分の為だもの」



結局は自分の為、骸さまを想う自分に忠実なだけ。

正義とはなんなのか。傷付けない、傷付かない、そんなことはありえない。
わたしの前に立ちはだかるマフィア、ボンゴレファミリー。彼らは骸さまを敵だと云う。ならばわたしにとっても敵なのだ。骸さまを敵にすると云うことは、つまりそういうこと。
彼らが正義だと云うのなら、わたしは悪なのだろう。
世間から隠れるように息をして、けれど襲いかかる準備だけは万端でいつも爪をたてている。
どれだけ考えても答えは出てこなくて、しかし一つの結論は出せた。


「お前たちが正義なら」


譬え世界が敵になっても。


「わたしは悪で構わない」






正義ってなぁに





(それは、わたしが憎んだもの)










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黒耀連載やりたい〜


20100401 再録