夜中にケータイが鳴った。 メールかと思ったらそれは電話で。 画面には、恋人の名前が表示されていた。






電話越しの君





「眠いわ」
通話ボタンを押すなりは言い放った。
『でも起きたじゃん』
相手は悪びれもなく云う。の恋人は越前リョーマである。
「あのね・・・電話着たら普通起きるし出るわよ」
『俺じゃなくても?』
「当たり前。・・・何、もしかして妬いてるの?」
薄手のカーディガンを羽織ながらベッドサイドに腰掛けた。こんな時間にかけてくるということは、恐らく長電話になるのだろう。時計に目をやれば、もう夜中の12時を回っていた。
「意外にかわいいところあるんじゃないの、生意気ルーキーさん?」
こんな時間にたたき起こされた仕返しに、意地悪く云ってみる。しかし、これくらいでめげるような柔な精神を持っているリョーマではなかった。
『・・・俺の声、聞きたくなかったの?』
思わず噴出しそうになってしまい、堪えるのに苦労した。
どこまでふてぶてしいんだ、この1年生は。
声が笑いで震えないように気をつけながら、は云った。
「聞きたくなかったわけじゃないわよ」
『じゃあいいじゃん』
「・・・そういう問題?」
かわいい恋人の言い草に呆れつつ、そんな生意気な後輩に心を奪われてしまったのはほかでもない、自分自身であることにため息が出た。もちろん呆れたのではなく、単に驚いているだけだ。

中学3年であるの好みのタイプは、年上長身だった。しかし、今の恋人はどうだろう。年上でもなく長身でもない。云ってしまえば、身長はのほうが若干高めでもあったりする。
しかし、出会って約1ヶ月ではこの年下に陥落してしまった。
どこに惹かれたのかと問われれば、はあっさりというだろう。
性格、と。

「まあいいんだけど。で、どうしたの?」
ケータイを持ち替えて、枕元に置いてあったぬいぐるみをいじりながら問うた。
『別に、声が聞きたかっただけ』
さらりと云った恋人には思わず口を開けて固まった。こんな時間にかけてくるから、何か云いたいことがあるとばかり思っていたので、そんな理由だとは思わなかった。
「それだけ?」
思わず問えば、
『駄目だった?』
と返される始末。考えすぎだったのだろうかと苦笑した。しかし、そんなことで電話をかけてくる恋人に、これ以上なく愛しさを感じてしまっている自分がいることもまた確かだった。
「駄目じゃない。嬉しいわ」
だから素直にそう云ってやる。恐らく、彼は喜んでくれるから。

『先輩、俺にゾッコンでしょ』
「ええ、悪かったわね」
『悪くないよ。俺も先輩のこと、世界一大切だし』
「あら嬉しい。それじゃ、私とテニス、どっちが大事?」
ありがちな質問を投げかけてみる。すると、数秒間の沈黙の後、低い声が返ってきた。
『・・・俺のことからかってる?』
予想通りの反応に、耐え切れずは噴出してしまった。
『・・・ちょっと』
「ご、ごめん・・・だって・・・」
『うわ、性格わるー。自分の質問の答えに笑う?普通』
「だからごめんなさいってば。だって、リョーマったらあんまりかわいいんだもの」
『・・・男がかわいいとか云われても嬉しくないんだけど』
拗ねるリョーマをなだめ、は気分転換に違う話題をいくつか振った。そんなことを話しているうちに、もう1時近くなっていた。
それからはリョーマの話の聞き手にまわり、かわいい愚痴に付き合った。

電話越しの君は酷くかわいくて、私はきっとずるいんだ。
だって、君のこのかわいさを知っているのは私だけだから。少なくとも、今この瞬間だけは。

時計の針が2時を指しそうになった頃、漸く2人は話を終わりにしていた。
「流石にそろそろ眠いわね。リョーマくん、今日も練習でしょ?早く寝ないと手塚くんの激が飛ぶんじゃない?」
からかい半分で云うと、
『うっわ、ホントにやられそうなこと云わないでよ』
と困ったように返してきた。こんなところもかわいいんだ、とは、流石に口にはしなかった。
「それじゃ、おやすみ」
『あ、ちょっと待って』
電源を切ろうとすると、あちらから制止がかかった。
「どうしたの?」
不思議に思って問う。
『おやすみの前にさ、なんか云うことないの?』
「・・・何を?」
『恋人に云ってもらいたいこと』
はぁ?と思わず聞き返しそうになるのを堪え、頭の中で一体何かを考える。
恋人に云ってもらいたいこと。それは何か。
考えて考えて、1分近くが経過したところで、はああ、と声を上げた。
「それは私が云うものなの?」
『俺が云って貰いたいの』
「・・・私だけ?」
『俺も後から云う』
「ホント?」
『ホント』
「・・・・・・」
『・・・・・・』
クスっと2人は笑う。
「ね、じゃあ2人で一緒に云いましょう?公平に」
『・・・いいよ』
「じゃ、せーのでね」
うん、と答えたリョーマに、見えないとわかりながら微笑んだ。
「・・・せーの」

「『愛してる』」

おやすみ。
受話器から聞こえた最後の声に、電話越しの君の愛しさを改めてかみ締めた。










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リョ朔も好きだけど、リョーマは年上好きだと思うんだ。