それは蜘蛛の糸を手繰るような危うい作業で、私たちは綱渡りのような深長さで息をしていたのだ。
世界が終わってしまう前に、せめてもの抵抗としてひっそりと忍んで、この世で最も美しい恋をしてみたかった。

永遠のものなどこの世には存在しないと私は常々思っている。しかしそれを口にしないのは、サソリの芸術論に反するわけでは決してないからだ。それにおそらく、口にしたことはないけれど、きっと彼は私のそういった考えなどお見通しに違いない。彼はとても聡く、優しすぎる人だから。私はその聡明さと暖かさに時折無性に泣きたくなるのだけど、それも、表には出さないようにしている。存外難しいことを知っているだろうか。
そんな私の努力だってお見通しな彼は、しかしその努力を水の泡にするようなことばかり云う。泣けばいい。我慢しなければいい。無茶を云うと笑い飛ばしてしまえたらよかった。冗談云えと一蹴出来たらよかった。
純粋な優しさなんて彼には似合わないし私にはふさわしくないはずなのに、不思議と勝手に涙腺は緩んで滴がポタリと床に落ちた。泣いているのだと自覚したのはサソリに抱き締められてからだった。

大声を上げてみっともなく泣く。
彼の肩に額を押し付けて泣く。
見せられないくらい顔を歪めて泣く。
生まれたての赤子のように、泣く。

彼は優しいけれど不器用で怖がりで、少しだけ私たちは似ていた。多分、だから惹かれたのだと思う。
同族嫌悪しながら私たちは傍にいて、お互い以外を蚊帳の外に置いた。酷く閉鎖的、それでいて脆い繋がりは、私たちには甘美すぎた。ただただ単純に、大切だった。

世界はいつか終わるけれど、私たちだけは永遠ならいい。
朽ちないものを手にいれたらいい。
何せ私たちははみ出し者だから、それくらいは神様だって許してくれる。

強く引きすぎた蜘蛛の糸は呆気なく切れ、呼吸が乱れた綱渡りでは落下する。
世界は哀しいままだった。永遠を信じた天才に見向きもせず、永遠に気付かない愚者にそれを与えるのだ。

まるで眩しい太陽から逃げ仰せるかのような恋は、いとも簡単に終わりを告げる。






愛しておくれよ、ディアマイン










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20100401 再録