人を殺すことが悪いことだと云うのなら、この世には悪ばかりが蔓延っているのだろう。乱世は人を殺す。
そうだ、云うなれば、悪とは、世界その物。

「身も蓋もないねぇ」

「でも、事実よね」

「うん、まぁ」

「誰か終わらせてくれたらいいのに」

この狂った乱世に、終焉を。願わくば安らかなる終焉を。
手放しで見守りながらそう願う私は果たして狡いのだろうか。決して自ら名乗りをあげようとしないのは、恐れか、逃げか、はたまた。

「・・・・・・うちの人たちなら、出来るんじゃないかな?」

「お館様と幸村?」

「そそ。あと、俺様?」

「・・・いい冗談ね」

本気なんだけど、と笑う佐助が本気だなんて、そんなの気付いていた。けれどあえて知らん振り。同意してしまえば、私は政宗を裏切ることになる。それに、誰か、なんて曖昧なことを云っていても、結局私が思い浮かべたのはあいつだった。口にはしなくとも、きっと佐助も気付いただろう。

「天下を」

「うん」

「取るの、は」

「うん」

「―――優しい人が、いいな」

「・・・・・・そだね」

いつか私の罪を、誰かの罪を、世界が犯した大罪を許してくれる人が現れたらいい。全てを包み込んでくれる暖かい人が現れたらいい。

出来ることなら、それは。


「誰も傷付かなければ、」


無い物ねだりだとわかっているけれど、それでも願う、儚い願い。






空想
















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誰も救われない世界は、辛い。


20110128 再録