彼が私を見ることは終ぞなく、結局は私も、彼以外の人を愛した。






愛をする人





とても不器用な人だった。
面と向かって素直になれなくて、いつも憎まれ口ばかり。あとからこっそり後悔するならやめておけばいいのにね。
だけどそんなあなたを好きになったのは私。傍にいることを許されるようになってからは毎日が天国だった。
学年も寮も一緒。
監督生も二人だった。
これはもう何かの運命に違いないわと舞い上がったりもした。けれど、結局は。


(あなたが好きなのは、彼女だものね)


大理石のような肌、エメラルドの瞳、長く赤い綺麗な髪。可愛くて強い彼女。
私も大好きな彼女。
セブルスは彼女を好きなのだ。
ずっとずっと昔から。
私がホグワーツでセブルスと出会う前から、ずっと。人生のすべてをかけて、彼女を愛しているのだ。
一体どうして私がそんな彼を振り向かせられるというのだろう。
出会って高々7年しか経っていない私が。幼なじみとしてずっと彼女を見つめ続けてきたセブルスの想いを、どうして。
出来っこない。
出来るはずがない。
だって彼は今でも彼女しか見ていない。隣にいる私のことなんてみてやしない。
哀しいとも思えないほど、彼はリリーのことしか眼中にないのだ。


(ああ、なのにどうして、)


あなたは私を傍に置いてくれるのですか?
それは憐れみ?
同情?
それとも。
私にはわからない。
だけど、きっとわからないほうがいい。
そうすれば、何も知らずに傍にいられる。例えそれが彼の一時の気の迷いだったとしても、今だけは幸せでいられるから。
嘘でもいい。
気まぐれでもいい。
今だけ、今だけは。


(……ずるいわ)


彼も、彼女も、そして多分、私も。
彼女のことを心底想いながら私を傍に置く彼。
彼の心を掴んでいながら振り向かず、他の男を愛する彼女。
すべて気付いていながら、かわらない私。
きっと誰もが自分のことで精一杯で、周りのことなんてみていない世界。
魔法使いはマグルより優れているだなんて云ったって、魔法じゃこんなことはどうにもならない。


(所詮は、人間)


滑稽だ。
力があると豪語しながらどうにもできない事実。
マグルと同等に扱われるのが何より苦痛だというセブルス。
だけど一番の道化は私だ。
気付いても、進むことも、戻ることも出来ず、止まることも拒否する私。
愚かさなど。謙虚さなど。


(でも、もう、終わるわ)


私たちはもうすぐ卒業だった。
7年間の学生生活を終え、それぞれの道を歩む。
仲良しごっこはもう終わり。
恐らくもう二度と、この人たちを垣間見ることは叶わない。
何故なら私は母国へ帰る。
魔女としては生きない。
ただの人間に、戻るのだ。
その点彼らはこの世界に留まる。闇払いであったり、魔法省であったり、あるいは、死喰い人であったり。
どのみち私とは、縁遠い人となるだろう。


(さよなら、だわ)


私はセブルスとの唯一の絆を断ち切ろうとしている。
私たちは、魔法使いという点だけの繋がりだった。
それを私は失う。
卒業という残酷な刃が、私たちを断ち切る。
もともと頼りない鎖だった。
よく見ないと見逃してしまいかねない鎖。
私は、それを掴んで、刃に差し出した。これは罰だ。罪深い私への、断罪のための。


(傍にいて。名前を呼んで。抱き締めて)


願いは途方もない。けれど祈らずにはいられない。


(嘘でも、いいから)


消え行く私に、最期の優しさを与えて。


(嘘でもいいよ)


だからどうか。



(大好きな彼女を、嫌いになる前に)



嫉妬のあまり、憎んでしまう前に。どうか。





不器用な人だった。そんな彼は彼女を愛していた。そして私は、それを承知で彼を愛した。

さよならまで、あと少し。










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連載予定の梓海母、朝海(あさみ)。実は学生時代はセブルスに片想いだったよ設定。

書きたいお話がたくさんありすぎて、手がつけられない\(^O^)/


20100307