目を覚ましたら涙が流れていたので驚いた。
仰向けのまま手を顔に持っていき頬に触れた。冷たい。
多分、長いこと泣いていたのだろう。少し目が熱くて痛かった。

ゆっくり起きあがる。夢を見ていた気がした。けれど、内容はまったく思い出せない。
泣くほど哀しい夢だったのだろうか。それならそれで、何か嫌な感じが残っていそうなものだけれど、さっぱりそれもない。妙な気分だった。

あたりを見回すと見慣れた自分の部屋だった。
しかし、いつもと変わらず、昨晩寝たときと同じはずのこの部屋が、なぜか違うものに感じた。
無性に不安になった。
このままここにいたら、自分まで違うものになってしまうような気がした。そんなことはありえないのに、そんな不安に駆られた。

思わず寝間着のまま部屋を飛び出した。心臓がバクバクいっていた。
当然だが廊下は薄暗く、誰もいない。わかっていることなのに、余計に不安になってしまった。


「……?」

「っ」


かちゃり、と静かに隣の部屋の扉が開いた。ギョッとして振り向くと、シャンクスだった。
薄暗い廊下でシャンクスの赤髪は異様に目立っていた。決して闇には溶けない、染まらない。美しいと単純に思った。


「どうかしたか?」


不思議なことに、先程まであたしを蝕んでいた不安は完全に消えていた。
代わりに、気が抜けるほどホッとした。


「……なんでもない」


シャンクスが納得するはずはないとわかっていながら、あたしは曖昧に笑って誤魔化した。
案の定、どこか不満そうな顔をしたけれど、それ以上は何も云ってこなかった。彼は優しい。


「シャンクス」


多分あたしはこの人がいないと生きていけないと思う。


「少し、一緒にいて」


だって傍にいるだけでこんなに安心出来て、愛しく思える人なんて、もう現れないに違いないのだ。仮にもし、そんな人が現れたとしたって、あたしはシャンクスを選ぶのだろう。
シャンクスがいい。

シャンクスでなければ、嫌だ。


「……誘ってんのか?」

「えろオヤジ。」

「お前ね」






暗闇から光





多分この先も悪夢は消えない

けれど隣にいてくれる人がいる

だからあたしはここに立つのだろう

あたしを強くしてくれる、
この人の傍に










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傍にいてくれるだけで、幸せになれる。