ねぇ。

素朴な疑問なんだけど。






わたしのために





「ね、わたしのために死ねる?」

問うた少女に、鹿目はデコピンを食らわせてやった。
「いったぁぁいいぃ!!何すんのよッ!!」
少女は涙目になって非難の声を上げる。しかし鹿目はそんなことはお構いなしだ。今度は少女のほっぺたを抓ってやる。
「いにゃぁんいひゃいいひゃい!!(いやーん痛い痛い!!)」
「馬鹿なことを云ったのはこの口なのだ」
「いゃぁい!(痛ぁい!)」
「金輪際、こんなことは云わないと誓うのだ」
流石に力いっぱいではないが、それにしたってピッチャーをやっている人間にほっぺたを抓られたら痛いに決まっている。誰にやられても痛いものは痛いが。
少女が急いで首を縦に振ると、漸く鹿目は手を離した。抓られていた両頬の部分が少しひりひりする。
「痛い・・・」
「痛くしたのだ」
「きゃっ、鹿目ったらS?」
「それを云ったらお前はMなのだ」
「・・・それは嫌なのだ」
「真似するな」
「うっせーバカボン!!」
「ば、バカボンていうな!!」
「へーん、わたしはねぇ、鹿目のために死ねる女ですよー!!」
「知るかッ!!勝手に――・・・、何?」
云いかけて、途中で止めた。
僕のために、なんだって?
「聞こえなかったの?わたしは鹿目のためなら死ねるって云ったのよ」
ふふん、と勝ち誇ったほうに云う少女に、鹿目は軽い眩暈を覚えた。
何を云っている、などと聞く気力もない。
「わたしの愛の告白が受け取れないの?」
どこまで傲慢な性格だ。
喉まで出かかった言葉を飲み込んで、代わりにため息をつく。
ずいぶんな告白である。
対する鹿目は、ふんっと鼻を鳴らした。
「随分とまたカーブに云ってくれるものだな」
「あら、十二支のエースピッチャーはストレートがお好き?」
嫌味か、と睨みつけるが、そんなものはこの少女には通用しないことははなからわかっていた。
エースさまはカーブがお得意なようですから合わせてみたんですけれど、と笑顔で云った少女に、もう一度デコピンを食らわせる。
「ったい!だからデコピンはやめてよね、超いったいんだからっ!!」
「喧しいのだ」
「うっわ何その態度!悪いと思わないわけ!?」
「僕は今お前のせいで不愉快な思いをしたのだ。これくらいは当然なのだ」
「あら、わたしの告白が不愉快?お言葉ねーッ!!」
「ああ、不愉快だ。」
腕を組み、どかりと椅子に座る。
今教室に居るのはこの2人だけだった。ついさっきまで鹿目は黒板を消しており、少女は日誌を書いていた。今週の週番だったのだ。
そうして少女の目が自分に向いていることを確認してから云った。

「先を越された」

絶句。
口を開けて目を白黒させている少女に、鹿目はとどめの一発のでこぴんを食らわせてやった。










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え、何が云いたいの私。 鹿目っつら・・・!私君のこと好きだから・・・!(何なの) いきなり『お前のために死ねる』なんて云われたら誰だって引く。どん引き。