は酷く美人であり、その上気立てがよく誰にでも平等に優しい。まるで女神のようだと誰かが云ったが、まさにその通りだと思う。きっとどこかの教会の壁画から抜け出した女神なのだ。そうでなければ、あまりにも。


「―――シリウス。大丈夫?」

「………いや、」


いつの間にか伏せっていた目を、彼女の声にハッとして上げれば、思いの外近くにあった顔に内心かなり動揺した。プライドにかけて、それを顔に出したりはしなかったけれど。
僅かに速まった鼓動がどうか聞こえないようにと願いながら、なんでもない、と視線を斜め下にずらす。この距離は、反則だ。


「ふぅん。まぁ、構わないけど。でも、気付いてないようだけど、みんな部屋に戻ったわよ?」

「は?……あいつら!」

「あら、云っときますけどね、みんな声をかけたのよ?ジェームズは耳元で一度怒鳴ったし」


それでも無反応だったから、呆れて置いていったの。
固まったみたいに寝てたのよ、と彼女は笑った。寝ていたつもりはないのだが、相当ボーッとしていたようで、そんなことまったく気付かなかった。
辺りを見渡せば、親友たちどころか他の生徒一人もいなくなっていた。時計に目をやれば、消灯時間五分前。道理で静かなはずだ。


「って、、大丈夫なのか?」

「時間?ああ、平気よ」

「あ、あの隠し通路か」

「そう。さすがホグワーツよね。グリフィンからスリザリンまで一分で繋ぐなんて」

「俺たちに感謝しろよ」

「その前に、あなたを待っていた私に感謝してほしいものね」


は、と顔を上げれば、彼女はやれやれと首を横に振った。
待っていた、とは。


「俺を?」


頷く。


「誰が?」


人差し指で彼女の胸をさす。
鼓動で、耳が痛かった。


「………なんで」


はやる気持ちを抑えるのが精一杯で、緩んだ顔を引き締めるまで気が回らなかった。
すると、彼女は人差し指を、ゆっくりと唇の前に立てた。
そうして。



「秘密。」






その妖艶な微笑みは





いつでも俺を惑わすのだ










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好きとは云わない(云えない)

20100401 再録