ある日、グリフィンドールの談話室にお邪魔したら、暖炉の前のソファでシリウスがダレていた。グリフィンドール、いや、ホグワーツ一の美男子と謳われるシリウス・ブラックともあろう男が、なんと云う様だろう。
一緒に課題をやる予定のリリーはまだ来ていないようなので、私は教科書を抱えなおしてシリウスのところまで行った。


「おはよう、キュートなシリウス」

「・・・・・・なんだそれ、新しい皮肉か?」

「とんでもない。ただのジョークよ」

「さいですか・・・」

「それで、どうしたの。こんなところでそんな顔して」

チェストに教科書を置きシリウスの斜め前に腰をおろした。相も変わらずシリウスはグデッとだらしなくソファに腰掛けたままで、深い溜め息をつきっぱなしだ。正直云って鬱陶しい。
するとシリウスは、ちら、と私の顔をみてから一際深い溜め息をひとつ。

「聞いてくれ」

「訊いてるのよ」

「・・・・・・俺、もしかしたら病気かもしれん」

「(流したわね)いやね、これだからプレイボーイは」

「なぜ俺の病気をソコに限定する」

「違うの?」

「違う!」

ダンッ、と弱々しくもテーブルに拳を叩きつけ否定した。そこまでムキになられると、余計怪しいのだけど、敢えて何も云わなかった。シリウスの鼻息は荒い。
ところが威勢がよかったのはほんのその瞬間だけで、またさっきの調子でだらりとソファに背を預けてしまった。本当にだらしない。

「いつもの無駄な元気はどこに忘れてきたの。それとも、相棒がいないと元気が出ない?」

「お前な。一体俺を何だと思ってるんだ」

「ハンサムだけど我が儘で一途と云えば聞こえはいいけど単純に云ったら猪突猛進、そのくせ時々優しくてジェームズラヴのプレイボーイ」

「それ、本気で云ってるんだったら本気で泣くぞ」

あまりに恨めしそうに云うものだから、私は肩を竦めてジョークよ、と笑った。もっとも、それにしてもシリウスは傷ついたようだったけれど。溜め息をつく横顔が寂しそうだ。

あんまりからかうのも可哀想なので、そろそろ本題に入ることにする。私には面白おかしい問題でも、彼には重大なことかもしれない。

「病気って、どうかしたの?」

「・・・・・・・・・」

「ちょっと、シリウス」

まさか話を持ちかけてきたくせに云わないとかそんなオチにするつもりだろうか。だとしたらとんだ友人だ。からかったのは置いといて、一応は心配をした私に対して。
軽く眉を持ち上げてシリウスが口を開くのを待つ。すると、ちら、とこちらを何度かみて、また深い溜め息をつくのだった。

「腹が立つほど苛つくわね」

「悪い」

・・・・・・正直、気持ちが悪い。
いつもの元気はどうしたのか、こんなに素直に謝るシリウスの扱い方に戸惑ってしまう。
まさか本当に病気で元気を失くしてしまったのだろうか。今更ながら、本気で心配になってきた。

「ねぇシリウス、わかったわ。ちゃんと相談にのるから、マダム・ポンフリーのところへ行きましょう」

「いや、必要ない」

「どうして?マダムならどんな病気にも精通してるのよ」

「さすがのマダムも俺の病気は治せねえよ」

「あら、病名はわかってるのね?ならなおさら行かなくちゃ」

「行っても意味がない」

「どうして!もう、じれったい。あなた、何の病気なの!」

こっちは心配して安全で的確なアドバイスをしているというのに、こんなときにもシリウスは頑なだった。病名を知った上でこんな様子なのだから一刻を争う事態ではないのかもしれないが、マダムにも治せない病気とは一体なんなのか。

いい加減にしろというのに、またシリウスはこちらをチラッと見、しかし今度は観念したような溜め息をついて身体を起こした。

「驚くなよ」

「驚かないし引かないから」


意を決したように、重々しく、口を開いた。






「恋の病だ」





(殴りたかった)
(でも我慢した)

(馬ッ鹿じゃないの!)

(恋の病で死んでしまえ!)











--------------------

一応告白のつもりだった黒犬さん。


20110128 再録