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もう会えないのだとあの瞬間悟った。 動かないはずの電車、けれどこれから俺たちを乗せて元の世界に還す電車。 俺たちは乗り込んだけど、彼らは、そして彼女は乗らなかった。乗れなかった。 それは許されないことだったのだ。望むことも。ましてや口に出すだなんて、そんなこと。 最後の時まであいつは笑っていた。初めて会ったときと同じ、優しく無邪気な笑顔を浮かべていた。 感情を知らないと云ったあいつはもういないはずなのに。 嬉しい、楽しい、寂しい、悲しい。 いろんな感情を得てきたはずなのに。 泣きもしない。怒りもしない。 ただ、笑ってそこにいた。 逆にこっちが泣きそうになるなんてずるい。 「」 「なぁに、太一」 名前を呼ぶ。 きっとあちらの世界に帰ったら、もう二度と口にしないであろう名前。 だって、そんなことしたら寂しくて怖くて、会いたくて会いたくてしょうがなくなる。自分の世界を捨ててでも会いに行ってしまいたくなるに決まってる。 でも、そんなこと、出来やしないから。 だから、名前も、この感情も、心に大事にしまっておくのだ。 電車の窓から精一杯手を伸ばす。 一度首を傾げてから、も同じようにこちらに手を伸ばしてくれた。 触れる。 つかむ。 「ありがとう。じゃーな」 笑えただろうか。 涙は流れていなけれど、泣き顔にはなっていないだろうか。 「たいち」 泣かせたくて云ったわけじゃないのに、は泣いた。 首を振って、じゃーなじゃないよ、と云った。 「またね、だよ」 「もう会えないの、やだよ」 短い付き合いじゃなかったけど、こんなに泣くは初めて見た。 そしてはっと、周りの視線が非常に痛いことに気付いた。 曰く、『泣かしてんな馬鹿!』だ。 俺のせいかよ。反論してもそうだと云われるに決まっているので、腹を括って電車を降りた。そして泣きじゃくるを抱きしめる。 「そうだよな。ごめん。またな、だよな」 「そうだよ馬鹿。怖いこと云わないで」 「怖いこと?」 「もう会えないかもしれないなんて、思わせないで」 ああ、こいつは本当に可愛い。 好きになってよかった。 の涙を拭いてやって、ニッと笑ってからまた電車に乗り込んだ。 今度は、さほど寂しくない。 また会えると、信じているから。 だから。 「またな!」 あの世界でのことは何一つ忘れない。 何もかもが輝いていて、楽しくて、素晴らしかった。 何より、俺は人を好きになるということを学んだ。 あいつの笑顔が、今でも俺の中で輝いている。 -------------------- 無印は神だよ。 これも本当は連載したいんだけどどうせ無理だと思うからちょいちょい短編で書こうと思ってます。有言実行するほうが難しいからどうなるかわからないけどね(ちょ) デジタルワールドで唯一人型プログラムの女の子。細かい設定あるんだけどそれは追々。無理があるとか云わないで!私がよくわかってるから(www) |