暗転した世界の中でも光を探していた。だけどやっぱり光なんてここにはなくて、世界は真っ暗なままだった。
失ったのはついこの間なのに、もう随分と昔のように思える。それだけ光を手にしていた時間が濃いものだったということだろうか。あの頃はそんなこと考えてもいなかった。ただ傍に光があることが嬉しくて、当たり前になっていて。失ってから気付いても遅いのに、俺は今更気付いたのだ。
ああ、おれはやっぱり馬鹿だった。






喪失恋愛





「あんたがシスコンなのは知ってたけど」

ちょっと、度が過ぎてるんじゃないの。
呆れを隠さず云い放ったのは一年来のクラスメイト。中学入学で知り合い、なんの因果か隣の席になることの多かったこいつは、多分女子の中では一番仲がいいのだと思う。何せ、ここまでズケズケと思うままを云うのはこいつだけだ。
寒い冬の昼休み、屋上に出て昼食をとる酔狂はおれたち以外にはいなかった。しかし不思議でもなんでもない。むしろ何故自分たちが屋上に出てきたのか、そっちのほうが謎だ。多分何も考えてなかったんだろう。冷たい風が頬をなでつけ、ぶるりと震えた。さっき買ってきたホットココアが身に染みる。

「てゆーか、ヒカリちゃん家にいるんでしょ?まさか小学校と中学校に別れたから寂しいわけ?」

「いや、そんなもん今更だろ」

「まぁね。あ、わかった。ヒカリちゃんに彼氏が出来たとか?」

「まだタケルにゃヒカリはやらん!!」

「父か」

しかもタケルって誰よ、と呟いて最後のサンドイッチにかじりついた。きっともうタケルへの興味などないに違いない。

というか、光=ヒカリじゃないんだが。まぁ、云ったらややこしいことになるからいいか。
欠伸をひとつして、おれは寝転がった。空は馬鹿みたいに青かった。
ヤマトや光子郎たちが、おれとこいつが仲がいいことにいい顔をしないのはわかっている。理由だって気付いている。でもどうしようもなかった。
三年前、おれたちは普通じゃできない体験をした。最初こそ、冗談じゃない、と思ったけど、いつの間にか本気になってあの世界を守ろうとしている自分たちがいた。
あのとき出逢ったデジモンたち、あのとき繋いだ絆。きっとこれからさき何があっても忘れないだろう。―――勿論、あいつのことも。

忘れようがない。忘れるはずがない。


(初めまして、あなたは誰?)


人形のように笑うやつだった。類似ではなく、まさしく人形のようだったのだ。


(ニンゲンって何?)


無機質な笑みを浮かべて云った。理解し難い存在にむけるような目だった。


(私とは違うのね)


寂しそうに笑い、呟いたときの虚しさは云い表しようもなかった。ただ、"違う"存在である事実がもどかしくて、似ているのに"違う"ことに苛立ちを覚えた。


(太一)


いつしか自分たちがお互い"違う"存在であることを忘れていった。だっておれたちは笑う。変わらない。あいつだって、笑う。


(太一)


名前を呼んでくれる。


(太一)


人形だなんて誰がいった。おれたちは確かに違う存在だけれど、おれも、あいつも、デジモンだって生きている。
少しの違いだなんて。

気に、したくなかった。


(じゃあね)


三年前、おれたちは普通じゃできない体験をした。

三年前の夏、初めて人を好きになった。

三年前の夏、冒険の終わりと同時に、初めて好きになった人を失った。


(    )


おれはあの日からずっと、あいつしか想ってない。



似ていた。
初めてあったとき驚いた。本当に。
性格も雰囲気もまったき似ていないのに、顔が、あいつにそっくりだった。笑い方も、全部似ていた。一瞬本気であいつかと思うほどで、他のやつらに訊いても似たり寄ったりに感じたらしい。
だからヤマトたちはいい顔をしないのだ。おれが、あいつの変わりに、と思っているから。
そんなはずはないのに。
いくら似ていてもこいつとあいつは別な存在で、おれが好きなのは、紛れもなくあいつだけなのに。

「、何?」

知らず知らずにおれはボーっとこいつを眺めていたようで、それに気付いたこいつは怪訝そうに眉間に力を入れた。

「……なんでもね」

ああ本当に。



(会いたくて仕方ない)
(こいつじゃ駄目なのに)
(突き放せないのはおれの弱さのせい)

(ごめん)

(ごめん)











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もう途中で諦めた
そのうち無印時代のお話も書きたいわぁ


20071224 20100429(再録)