どこみてるの。わたしはここにいるのに、ねぇ、どこをみているの。
わたしたちはここにいるのよ。どこにも行かないのよ。なのにあなたはわたしたちをみないのね、みてくれないのね、(あなたの瞳に映るのは限られた人だけなのね)(そうあの人たちだけなのね)、酷いわそれならわたしはわたしたちはどうしたらいいの。
あなたの瞳に映るには、一体、どうしたら。






君の瞳に映るもの





「太一、なにしてんの」

「んぁー」

寝ようとしてんの、邪魔すんな。
緑色のブレザーを顔に掛けて、真夏の日差しをしのぐのは確かにいい考えかもしれない。けど、絶対そのなかの空気は暑いと思う。
そしたら案の定、少ししたら乱暴にそれをどけて上半身を起こした。恨めしそうに睨まれたって困る。

「お前が話しかけるから寝れなくなった」

「いや、今のは明らかに太一のミスだからね。せめて日陰行けば?」

「……かっわいくねーの」

うるさいよ。持っていた半分くらい入っている500mlのペットボトルで頭部を狙えば、ゴツンといい音がした。ざまみろ。舌を出して笑ったら、ホントかわいくねェ、なんて云われた。うるさいのよ、バカ太一。

「怒んなよ」

「怒ってないし」

「じゃあ泣くなよ」

太一がバカなのはとっくに知ってたけど、今の発言に関してはバカの頂点を極めていると思う。わたしが怒る理由なんてないし、ましてや、泣く理由なんてなおさら。
だと、云うのに。

「……泣いてないし」

「…嘘つけ」

ほとほとと流れるこの涙が鬱陶しくて仕方ない。なんでどうして流れるの、よりにもよって太一の前で。

「まぁ、あれだ。かわいくねェっての気にしてるなら忘れろ、嘘だから。お前はかわいいからホント」

太一はバカだ。大バカだ。そんなこと云うからわたしの涙は大洪水、止めどなく流れて屋上のアスファルトに染みを作る。ああ、人ってこんなにも泣けるのね。わたしは他人事みたく考えた。涙は止まらない。

「嘘つき」

知っているのよ、知りたくなかったけど。
あなたには心に想う人がいること。その人にはもうあえないかもしれなくて、それでもあなたの好きな人。
それを知ってからの毎日、何度涙に濡れたでしょう。届かない想いに絶望して、なのに想いを捨てきれなくて。哀しくて痛くて仕方なかった。いっそあなたを嫌いになってしまえたらよかったのにそんなことが出来るはずもなくて、ほんの一時の幸せに想いを掛けるしかなかった虚しさ。ねぇ、辛かったよ。

「嘘って、」

「嘘だよ。だって太一、」

好きな人いるんだもの。

口にするには心が痛すぎた。結局途中で口を噤む。わたしは臆病者だ。
怪訝に眉をよせた太一は、けれど何も云ってこなかった。いつもだったら無神経にズカズカ云ってくるくせに、今日はやけに大人しい。そういえば、最近どこか元気がない気がした。

漸く収まった涙を制服の袖で拭うと、また寝転がった太一が両腕を顔の前で交差させた格好で云った。

「俺さ」

抑揚のない声だった。

「好きなやつ、いるんだ」

「―――うん」

聞いてしまった。直接、太一の口から。否が応にも知ってしまった。頷く。胸が痛い。

「でももうあいつにはあえなくて」

「……うん」

感情のこもらない声が、かえって哀しかった。

「あいつに最後にあったのが、三年前の、今頃なんだ」

ああ、夏なんて消えてしまえ。この人を哀しくさせる季節なんて、なくなってしまえ。

「太一」

「……んー」

「やっぱり、限られてるんだね」



君の瞳に映るもの

(それはただひとつ)
(あの日の憧憬)











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途中から自分でもわけわかんなくなってどうしようって感じになりました。


20071210
20100429(再録)