今日は久々にお弁当を持ってきてみた。
 ここ最近はこの学校の学食が思いのほかおいしい上にお手頃な値段だったもので、とりあえず全種類制覇などということをしていたのでお弁当は作っていなかったのだ。因みに、私的ベストワンは中華オムライス。デミグラスソースの代わりに中華アンがかけられており、何かとおいしいものを口にしてきて無駄に肥えてしまっていた私の舌を唸らせるほどの美味さだった。
 おっと、学食トークになってしまった。


先輩」

「ん?」


 さて、どこで食べるか。
 友人たちは揃いも揃って委員会やら部活の昼練でみんな出払っているし、桃ちゃんは桃ちゃんでどっか行っちゃったし。
 そう思案していたときにかかった声は、紛れもなく、私がマネージャーを務める男子テニス部の期待のルーキーくんのものだった。






とある日、ベンチで君と





「こんにちは、越前くん」

「ッス」

「どうかした?」


 彼が声をかけてきたのは数十メートル先からで、私は適当に歩いている途中だったのでその足で越前くんのほうに歩く。彼もお弁当を手にしていた。


「先輩もまだッスか?」

「あ、お弁当?うん、まだよ」

「じゃあ一緒に食いましょ。俺、いい場所知ってる」


 とくに断る理由も見つからず、それに他ならぬ可愛い後輩の誘い。もとより断るはずもない。
 私は二つ返事で頷いて、越前くんと並んで歩き出した。





 ここッスよ、と彼が立ち止まったのは、なるほど人気のない裏庭だった。しかし手入れはしっかりされているあたり流石私立だと思う。
 ほう、と感心していると、さっさと越前くんは置いてあるベンチに座ってしまった。慌てて私も越前くんの隣に腰を下ろす。別に、取り立てて急ぐ必要はなかったのだけれど。


「静かでいい場所ね」

「でしょ?この前見つけたんス」

「そうねー、きっと授業サボって昼寝するには最適な場所ね、ここは」

「・・・・・・」

「越前くん、はったりって知ってる?」

「・・・・・・先輩、実は俺のこと嫌いでしょ」

「まさか!」


 どうしてこんな可愛い子を嫌いになるもんですか!

 力説したら、すごく嫌そうな顔をされてしまった。ああ、男の子に可愛いは禁句なのかな?生憎今まで私の周りには可愛い男の子なんていなかったのでよくわからない。

 程なくして、二人ともお弁当を広げ始めた。そりゃそうだ、だってここに来た目的はこれなのだから。まさか談笑してご飯を食いっぱぐれるだなんて冗談じゃない。午後の授業は数学と英語だから頭を使うのだ。
 ある程度話しながらお弁当をつついていると、ジッと視線を感じた。この場にいるのは私と越前くんだけであるので、勿論その視線の主とは越前くんなのだけれど。
 横目でチラリと越前くんを盗み見ると、何故か目をキラキラと輝かせていた。


「・・・どうしたの?」

先輩」


 思わず声をかければ、返ってきたのは返事とは違う、心なし弾んでいるかのような私を呼ぶもの。
 何、と問うと、今度はしっかりその目と私の目が合った。


「ソレ、食いたいッス」


 ソレ?

 自作のお弁当に目をやると、入っているのはホウレン草とエリンギとベーコンの炒め物、だし巻き卵、プチトマト、それと五目チャーハン。
 はて、この中で越前少年の目を輝かすほどにおいしそうなものなどないと思うのだけれど。
 なんだか、そんな期待に満ちた目で見られてしまうと困ってしまう。


「どれ?」

「だし巻き卵。」


 どうやら越前少年は卵が好きならしい。無類の卵好きらしい。あ、これ間違った情報ですけど。
 ともかく私は、そこまで卵を食べたいわけでもなかったので――入れたのは単なる彩りだ――、どうぞ、とお弁当箱ごと越前くんの前に差し出した。


「いいんスか?」

「あら、欲しいって云ったのは越前くんでしょう?」

「そうッスけど」

「いらないなら私食べちゃうよ」

「いるッス!」


 そんなにがっつかなくてもいいのに、と笑うと、先輩がからかうから!と何故か逆に怒られてしまった。
 嬉しそうに卵を口に入れる越前くんの横顔は年相応で、普段テニスをしているときと雰囲気がまったく違うから少しだけドキッとした。・・・少しだけ、だけど。


「おいしい?」

「うまいッス」

「あは、よかった」

「先輩、いつも自分で弁当作るの?」

「うん、そうよ」

「へー。じゃあ今度俺にも作ってよ」

「・・・気が向いたらね」

「絶対」

「・・・はいはい」


 まったくこの子は、憎らしいけど可愛すぎるから。

 少しだけわがままだけど可愛さが幾分勝るこの子は、この学校には通っていない私の友人によく似ていた。顔が、じゃなくて、なんとなく、性格が。きっと本人たちに云えば猛反論されると思うけれど。

 ニコッと笑って見せれば、越前くんは顔を逸らして自分のお弁当をついばみ始めた。





 予鈴が鳴った。
 越前くんとふたりでゆっくり、なんて滅多にないので珍しく話し込んでいたら、いつのまにやら昼休みも終わりに近づいていたらしい。


「そろそろ戻ろうか、越前くん」

「・・・サボる」

「は?」

「次英語だし、めんどくさい」

「余裕ね帰国子女くん」

「・・・嫌味?」

「ごめんごめん、じゃあ私は」


 行くね、と云おうとして。


「ん?」


 膝に、重み。


「先輩もサボろ」


 これは、この状態は所謂膝枕。


「・・・・・・越前くん?」

「俺、眠いし」

「私は授業に出たいんだけど」

「たまにはいいじゃん」

「・・・・・・・・・」


 どうやらこの子は友人だけではなく幼馴染にまで似ているようだ。これも、云ったら嫌な顔をされると思うけれど。

 どうしたものか、と考える。
 サボるサボらない云々の前に、この状況が、だ。
 正直サボるだけならまあいいか、と云う気でもあるけれど、膝枕は。こんな状態をこの子のファンなんかに見られたらと思うと背筋が冷たくなる。
 が、おやすみ三秒よろしくすでにうとうとし始めている可愛い後輩。



「もう、しょうがないなぁ」



 そう云って笑うしかないじゃないか。





 本鈴が鳴った青学、裏庭のベンチ。

 すやすやと寝息を立てる越前くんと、そろそろ足が痺れてきた私。


 あと五分の辛抱だ。










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越前は、ちょっとふてぶてしいくらいが丁度いい。相変わらず原作の方は嫌いですが。
最近大石連載を思いついてわーわーです。(は?)

↑て書いてあるけど、4年も前のことな上に一切ネタメモが残っていないので、さっぱり忘れた笑
でも大石連載って、なんだろう…私が気になる。