道連れという名の
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「あれ」 のクラスは四時限目の授業が体育だった。 中学と云えど、男女の体育はわかれるもので、普段比較的一緒にいる桃城とは今は一緒ではない。彼は外で野球だ。 対して女子は、体育館で地味に卓球―――もっとも、女子にはめっきり甘い体育教師はまとまってさえいれば好きにすればいい、と勝手気ままにやらせてはいるのだけれど。 が声を上げたのは、体育館から教室へ帰る途中の渡り廊下だった。談笑しながら歩いていた友人たちは、の視線を追いながら、どうしたの、と問う。そして、の視線の先を捕らえ、ああ、と納得したのである。 「珍しいね」 「うん、ホント」 「正直あの寝顔を写メりたい」 「犯罪だから。ていうか誰にメールするつもり」 「え、私の心に大事にしまっておくよ」 「怖いから!!」 つくづく、青学の生徒は個性的だと思う。筆頭は勿論がマネージャーを務める男子テニス部だ。 ポケットに手を伸ばし、いざケータイを取り出さんとしている友人を思いとどまらせ――この年で盗撮などという罪で友人が捕まるのは嫌過ぎる――とはいえ、彼らにしてみればこんなことは日常茶飯事かもしないが――、はその友人たちに先に行くよう頼んだ。 起こす前に写真!という友人の声をあっさり無視し、は問題の人物に歩み寄る。 彼は、天才と呼ばれる人。不二周助だった。 「先輩」 上から覗き込むようにして声をかける。案の定、返事はない。 さてどうしたものか、とは不二を見た。 テニス雑誌を顔に覆うように被せ、不二は爆睡していた。彼にしては珍しく、授業もサボったのだろう。 今不二とのいる場所は、渡り廊下以外からは死角になる位置なのだ。青学でこれ以上の昼寝スッポトはない。屋上では、陽射しが暑過ぎる。 「不二先輩」 「聴こえてるよー」 「・・・・・・・・・」 無理に起こすのも気が引けて、控えめに声をかけた二度目。あっさりと返事をしてきた不二に、は盛大なため息を吐いた。 まったくこの人は。 声に出さずともがそう思ったのを感じ取ったのか、ごめんごめんと苦笑しながら不二は身体を起こした。 「寝たフリですか?」 「いや、盗撮がどうのって会話が聴こえる直前までは本気で寝てたよ」 「・・・・・・冗談ですから安心してください」 そういえばあの友人の声は、大きさの割りによく通ることを失念していた。 気にしてないよ、と云う不二の隣に立つと、座れば、と勧められた。付き合いは半年に満たなくとも部活の先輩だ。無碍に断るわけにもいかず、は素直に腰を下ろした。 「先輩がサボりなんて、珍しいですね」 「そう?」 「少なくとも私はそう思います」 「あはは、、僕を買い被り過ぎてない?」 「・・・そうですか?」 「そうだよ」 これでも結構サボったりするよー、と笑う不二の表情は、嘘とも本当とも取れる曖昧なもので。遊ばれてる、とは直感した。 「先輩、お昼行かないんですか?」 「行くけど、行くと英二がなー」 「・・・喧嘩でもしたんですか?」 「さっきから訊いてばっかりだよ、」 「茶化さないでくださいよ」 憮然として云えば、ごめんごめん、とまた謝られた。この顔は絶対に悪いと思っていないことを、やはりは短い付き合いの中で熟知していた。そして自分は不二にとってイジリの対象であることにも、残念ながら気付いてしまったのだから始末が悪い。 「あ、別に喧嘩してるわけじゃないからね?」 「そうなんですか?よかったー」 「なんでが安心するの?」 少し疑問に思って小首を傾げれば、はあっさりと云った。 「先輩たちが喧嘩なんかしたら、テニス部全体に支障を来たしますから。」 すっかりテニス部マネージャーである。 けれど、それはそれで間違ってはいないので、それもそうかと不二は納得した。まったくこの出来の良い、転校生の後輩はどこまでも自分たちを気にかけてくれるらしい。 「英二に何も云わないでサボったからさ、フォローとかしてくれたとは思うんだけど、それについてクドクド云われそうってこと」 意外にも無計画な天才には苦笑した。ついでに、あの先輩ならしばらく根に持って云いそうだ、と思ってしまうあたり自分にもヤキが回っている。 昼休みを告げる鐘は、十分ほど前に鳴った。そろそろ教室に戻ってお昼を食べないと、最悪食いっぱぐれる可能性がある。は立ち上がり、戻りませんか、と云った。 「うーん、どうしようかなー」 「あ、私は先輩が行っても行かなくても行きますよ」 「早口言葉みたいだね」 「お先に失礼します。」 「冗談だよ」 つまんないなー、と笑う不二に、はつまらなくて結構です、と冷たく云い放った。これ以上不二に付き合っていると、本気でお昼を食べ損ねてしまいそうだ。 それはある日の昼下がり。 --------------------- 普通の話を書いてみたかったんだけど、なんだかわけがわからなくなりました。 |