そりゃもうばっさり。 |
髪の毛切ったよ。
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「どう?」 開口一番これはどうかとも思ったけれど云ってしまったものは取り消せない。私は右手で髪の先っぽをつまんで問うた。 「・・・随分と思い切ったね」 ですよねー。 切ったばかりでまだ傷んでもいない髪先を軽くいじりながら、私は自分でうんうんそうだよねーと頷いた。教室に来るまでに会った先生や友達にも何があったと聞かれまくりましたよ私。いい加減うんざりだっつー話だけど、とりあえず牛尾には自分から聞いてみることにしてみました。 髪をばっさりと切った。今までは肩より少し長いくらいだったけど、今回はベリーショートまでそりゃあもうばっさり。 一応理由はありますがね。ほら、よく女の子が髪を切ると云われる例のアレですよ。定番なお約束っつーんですかね。 「失恋しました」 爆弾発言投下。 案の定牛尾は行動を完全に停止してる。 隠すも何も本当のことで、私は一昨日の土曜日に見事失恋してきた。実に半年。2年の夏休み明けに付き合い始めたから、もう半年になるのだ。 顔はそこそこいい。ただし頭と性格に保障は出来なかった私の彼氏。実は牛尾に散々やめろって云われてたんだけど、振るのが面倒くさくてだらだらと付き合ってきた私の彼氏。 「いや、まさか振られるとはおもってなかったなー」 薄ら笑いを浮かべながら、私は教室の扉を閉めた。まだ朝も早い時間なので、今は私と牛尾しかこの教室にはいない。というかまだ隣の教室とかにも誰もいないかもしんない。 「・・・だから云っただろう」 苦笑いしかもう出てこないんじゃ。別に振られてショックだったってことは・・・いや、あるか。だって私ともあろう人があんな男に振られるだなんて、人生の汚点と云ってもいいくらいだ。いや、それはさすがに云いすぎなんだろうか。 髪を切ったのは気分転換だ。振られたあとに切ったらなんかなーと思ったけど、切りたくなってしまったんだからいいんだ。私は自分に正直に生きるんだい。 ここまで髪を短くしたのは人生で初めてで(生まれたばっかのときとかはもちろん除くけどさ)、ものすごく軽くなった頭はなんだか変な感じがする。気持ちを切り替えるにはちょうどよかったかもしれない。 「それで?」 「うん?」 当然のように先を促され、私は間抜けな声を出してしまった。おう、さん不覚だよ・・・。 「他にも何か云うことがあるんじゃないのかい?」 不思議そうに問われ、不思議なのはこっちだよと言い返したい衝動に駆られる私なのですよ。 他に牛尾に云うことあったっけ・・・? 「何を求められてるんだ・・・!」 思わず自分で本名呼んじゃうくらいには私は混乱しているらしい。 「・・・それだけ云うためにこんな朝早くに来たのかい・・・?」 困惑というか、なんというか。 牛尾の表情があんまりにも微妙だから、私はとりあえず頷くしかできなかった。ホントに私は何を求められているんだ。他に云うことって、牛尾は何を云われるつもりだったんだろう。・・・何で私は他人事のように云ってるんだろう・・・。 「・・・髪の毛切ったよ。」 私はもう一度髪を指差して云った。しつこいっつーの。でも、なんとなくもう一度云いたかった。 牛尾は一度驚いたように目を見張り、それから苦笑して云った。 「似合ってるよ」 やめろやい、照れるだろ。 照れ隠しのつもりで、私は傍にあったティッシュ箱をブン投げた。 -------------------- やまなしいみなしおちなし^^ |