『君が好きだよ。』

あなたは云いました。いつものように優しく微笑んで、まるで明日の天気の話をするみたいにごくごく普通に、平静に。
わたしは時間が止まった気がしました。だって突然すぎて、思いも寄らない言葉を、思いも寄らない人からもらってしまったのだから。
少し間をあけたあと、漸く言葉の意味を理解したわたしは、耳も首まで真っ赤になって鯉みたいに口をパクパクさせました。ああ、なんて馬鹿面!

「あれ、顔っていうか顔周辺全部赤いけど大丈夫?」

「だっ、誰のせいだと・・・!」

思ってるの、と続けたかったのに続けられなかったのは、あなたの眼が、あまりに優しかったから。すべてを包み込んでしまいそうなくらいに暖かかったから。
なのにわたしの頬に触れたその手はひやりと冷たくてドキリとしました。わたしは不覚にも、それ以上の言葉を失ってしまったのです。

「ねぇ、返事を貰える?」

小首を傾げてあなたは云いました。ねぇ、明日の天気を教えてよ。そんなノリで云ったのです。

好きか嫌いかを問われれば、間違いなく嫌いではないけれど、好きか、と問われれば、正直はっきりとは答えられる自信がありません。わたしはこの"好き"があなたの云う"好き"と同じかわからないのです。あなたのことは大好きです。ただそれが、友愛なのか、愛情なのか、わからないのです。

こんなわたしをあなたは好きだと云う。
いいのでしょうか。
許されるのでしょうか。

「山崎さん、」

「はい」

「わたし、わたしは」

「うん」

わたしがここでもしあなたの気持ちに答えず、暫くしてあなたが誰か他の女性と一緒になったとしたら、きっとわたしは途方に暮れるのだと思います。
そういえば、あなたがわたし以外の女中さんと話しているのを見かけると、酷く胸が痛むことを思い出しました。
それはつまり、そういうことなのでしょうか。そうなのでしょうか。

わたしは、あなたが、


「―――すきです・・・」


告げた瞬間にわたしはあなたの腕の中にいました。

あいしてる。


優しい声で素敵な言葉を呟いてくれたあなたはわずかに震えていて、もしかしたら泣いていたのかもしれません。けれど、きつく抱き締められて身動きが出来ないわたしには到底知れないことでした。
そっと背中に手を添えると、頬に涙が伝いました。泣いていたのはわたしのほうでした。


(ああきっと、わたしはずっとこうなることを望んでいた)






君が好きだよ。





(誰よりも一番に想う人よ)
(どうか幸せにさせて)











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たまには報われる山崎でも←


20110210 再録