cry





ぽたぽたと雫が落ちる。白い肌を滑り、頬を撫でてやがて空に落ち、そして地面へと。
一連の雫の動きを私は鏡で追っていた。情けない。唇を噛み締めた。泣くなんて。忍者らしくない。忍者は非情でなくては、自分を殺さなくてはならないのに。情けない。本当に情けない。ギリ、と握り締めた拳が悲鳴を上げて、爪が食い込んで赤い血が滴った。
泣きたくなんてなかったのに。泣くつもりなんてなかったのに。
伊作が卒業して、学園からいなくなっただけなのに。
どこにいても愛していると、絶対に味方だと云ってくれたその言葉を信じると云いながら、結局私はこんなにも不安で仕方なかった。
ずっと傍にいてくれるはずはないと知っていたのに。それは非現実的な願いでしかないとわかっていたのに。
涙は止まることなど知らないように、次々に溢れ出る。
心配かけないように、卒業式ではちゃんと笑ったのに。笑えたのに。
まだ、春休みなのだ。
まだ、伊作が卒業して一月も経っていないのだ。
それなのに、私はもうこんなに駄目になっている。
伊作がいない学園が、苦しくてたまらない。寂しくてどうしようもない。
頑張ると決めたのに、この様だ。
結局、伊作がいなくては私は何もできないただの小娘で、泣き虫で、酷く惨めだ。忍者になんてなれやしない。元々伊作に会いたくて入学したのだから、忍者になるつもりはなかったけれど。それでも、多少なりと忍者らしく振る舞っていたかった。
六年生長屋の、これまで伊作と食満先輩が使っていた部屋は今年は空き部屋になっている。私はそれをいいことに、一人やってきたのだ。
今までは、戸を開ければ伊作の優しい笑顔が迎えてくれた。独特な薬のにおいが鼻を突き、最初はなんとなく不快だったのがいつの間にか慣れてしまっていた。
けれど今は、戸を開けても伊作の笑顔はないし、薬の残り香だけが鼻を突く程度だ。
否応なしに、この部屋の主がいなくなったことを思い知らされる。

強くなりたかった。
誰にも心配されないように、強く。
溢れた涙の分だけ強くなれるなら、私はいくらでも強くなれる気がした。
涙はまだ止まらない。
もう止める努力はやめてしまった。

(―――)

ふと私を呼ぶ声が聞こえ、顔を上げる。何度か繰り返されたが、返事はしなかった。どのみちこんなみっともない顔では出られない。
もはや聞きなれたその声は、ほんの少し、幼なじみと似た響きをしていた。
耳に届く、優しい音。
余計に涙が溢れてくるから、ますます出ていくわけにはいかなかった。
彼が私を気遣っていてくれるのはわかる。
その理由も、つい先日知ってしまった。
嬉しくないわけじゃない。
だけど、応えられない。
受け入れるにはまだ、私には時間が足らないのだ。

強さの証を流したままに、もう少しだけ、弱くいさせて。
せめて涙を拭うまでは。










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強くなりたい。強くなりたかった。
もう、哀しまなくてもいいように。