突然目の前に現れた、胸がスケスケなセクシー通り越して破廉恥な衣装を身に纏った女の人(というと何故か非常に違和感があるのだが)は、偉そうにふんぞりかえった様子で宣った。

「お前はこの世界の人間じゃねーんだよ。」

絶句とはまさにこのことだ。この世界の人間じゃない?ならばどの世界の人間だというのか。美の世界の人間か?まぁそれなら納得出来なくもない。美しさって時には罪ね。

「馬鹿が。んなわきゃねーだろ」

「今あたし口にしてないんだけど」

「神に隠し事なんぞ出来るか」

「自称神とか痛いな」

「自他称共に神だクソガキ」

とんだ神様がいたもんだ。いきなり目の前に現れてお前はこの世界の人間じゃないとか云うわ神とか云うわ人の心読んでクソとか云うわ。あ、今すごく腹立ってきた。美少女相手にクソとか何事?クソはお前だクソ年増。

「聞こえてるっつってんだろ」

「聞くなよ」

「嫌だね」

「じゃあ耐えろ」

「まだ云うつもりか」

「もてる語彙の限りを尽くしてこき下ろす」

あたしを侮辱するやつは例え神であろうと地獄へ堕ちるのだ。悔いて泣いて許しを乞いてもどん底まで叩き落としてやるから覚悟しろハッハッハ。いや、まぁ実際ここまでは思ってないけどね。

「もう一度云うけどな」

「あたしがこの世界の人間じゃないって?馬鹿馬鹿しい」

「嘘じゃない。神は嘘をつかねーんだよ」

「証拠がない」

「ある」

「どこに」

あたしがこの世界の人間だという証拠ならばいくらでも出てくるだろう。役所に行けば、出生届も戸籍標本も住民票も出してもらえる。この類いの偽造は面倒なものだから、まず偽物ということはないだろう。家族に話を聞いてもいい。そして何より、あたしがここにいるのが証拠だ。あたしは生まれてこの方17年、としてここに生きてきた。それを今更この世界の人間じゃない?馬鹿馬鹿しい!一体何の根拠が!

「わかっているはずだ」

「だからいい加減に、」


「お前は人間じゃない」


時間が止まった気がした。背けていた顔をゆっくり元に戻す。神を名乗った人を見つめる。その目は決して冗談を云っているわけでも、笑っているわけでもなかった。ただ、無情に告げただけだ。事実を、淡々と。
口元が自然と弧を描く。おかしかった。
ゝゝゝゝゝゝゝ
何故この人が?
そんなことはわからない。神様だから、何か特別な力を使ったのかもしれない。けれど今はそんなこと、どうでもよかった。
ゝゝゝゝ ゝゝゝゝゝゝ
納得した。そういうことだったわけだ。

「・・・ふぅん」

「納得したか」

「した。最初からそう云えばいいのに」

「出会い頭に人外呼ばわりはまずいだろ」

「異人扱いもどうなの」

「硬ぇこと云うなよ」

笑った神は、腕を組んだ。そしてあたしは唐突に理解したのだ。拭えなかった違和感。その訳を。

「相変わらずね」

「思い出したか」

「一応」

そうだった。そうだったのだ。
あたしはだ。これに間違いはない。あたしがこの世界に生まれたのは事実であり現実である。
ゝゝゝゝゝゝゝゝ
間違えたのは魂だ。
の魂が、生まれ堕ちる世界を間違えた。
あたしはこの世界の人間じゃ、ない。

「で、あたしはどうしたらいいの?」

「選べ」

「・・・・・・・・・」

「お前にゃその権利がある」

酷いことを云うものだ。所詮は他人事ということか。薄情な友人もいたものだ。

「そうね。でも、わかってるんでしょう?」

「―――それでも」

選ばなければ、ならない。
薄情な友人は、顔を歪めた。非情にはなりきれないのだ。可哀想でもあり、そこが愛おしくもある。互いに浮かべたのは自嘲。紛れもなく、自分自身に向けて、嘲りの笑みを送った。いつからこんな皮肉屋になったのだろう。
見上げた空は真っ青で、まるで青色の絵の具をぶちまけたようだった。

今日、あたしはこの世界にサヨナラをする。






Walk alone
サヨナラを告げる人はいないまま









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ここから始まる物語


20110210