神様の仕事というのはぞんざいだ。今更ぼやいても仕方ないことだが、ぼやきたくもなるというものだ。我が友人ながら、無責任すぎる。 周りは鬱蒼と茂る樹々。太陽の光が枝葉の間からきらびやかに射し込み、柔らかな風が頬をなでる。 ―――だけにならばまだよかった。 滴る涎。地を這うような唸り声。今にも飛びかかってきそうな勢いの、目の前のケモノたち。一匹や二匹ではきかない。五匹はいるだろう。 あたしは餌じゃない。 声を大にして叫びたいが、こいつらが人語を理解出来るほど高等な頭脳を持っているとは思えないので台詞を飲み込んだ。だいぶ後味が悪い。 いかに刺激を与えずこの場を逃げるか、優秀な頭をフル回転させて考える。 だめだ。 どう足掻いても一歩でも動いた瞬間襲いかかってきそうな雰囲気。 無理。絶対無理。 っていうかおかしいだろ観世。なんで町中じゃなくて森の中に放置する。しかも森というよりもジャングルに近いこんな場所に。 思い出したとはいえ今のあたしは美少女なだけでいたいけな人間にはかわりないのに。死ねと。喰われろと。なんという無慈悲な神だろう。 しかも。 ぱきん――― 一歩足を動かした狼(のようなもの)にたじろいて思わず後退ると、今だと云わんばかりにケモノたちが吼え上がりこちらに突進してきた。 「嘘でしょぉ!?」 丸腰の美少女に飛び掛かることに罪悪感などないのだろうが、こちらとしては笑い事じゃない。冗談じゃない。 友人の神様に拉致されたまではまだいいが、制服姿で新天地に放り出された挙句野獣の餌になりました、では何のために拉致されたのか分からない。食べられ損など真っ平ごめんこうむりたい。 咄嗟に周囲に目を向け、手頃な木枝をひっつかんだ。心許ないがないよりましのはずだ。自慢だが、剣道初段。 「っなめんなぁ!!!」 降り下ろしてきた熊のように太い足をよけて打ち付ける。体勢を崩したケモノは勢いよく転がった。が、すぐさま身体を起こして再び低く唸り声をあげる。一応渾身の力を込めて打ったのにも関わらず、さしてダメージは受けていないようだ。 これでは枝切れでは太刀打ちできるはずもない。弘法筆を選ばずとは云っても、時と場合によるのだ。どうやら腹をくくるしかないらしい。 ゝゝゝゝゝゝゝゝゝゝゝ 出来れば使いたくない手だった。 しかしこうなっては仕方ないことだ。このままではあたしは目の前のケモノたちに美味しく頂かれてしまう。それはまずい。ならば。 「あのくそあま無能神雌雄同体まじで殺したい・・・・・・!!!!」 あらんかぎりの罵詈雑言を心中(と、少々実際に)吐き散らす。次に友人に会うときはまず腹に一発お見舞いしてやることを誓い、手首を返した。 ある意味では禁じ手だった。これはあたしがあたし自身に戒めたものだ。おいそれと戒めを解いていたのでは戒めの意味がない。だからこれまで極力使っていなかった。 が、今は緊急事態だ。今死ぬわけにはいかない。今更。 そのときだった。 がさ、と背後から何かの気配。これ以上を一気に相手にするのはさすがに厳しい。勘弁してくれ!と半泣きで振り返ろうとすると。 「危ない!!!」 つかまれた肩。 傾く身体。 倒れる途中で視界に入ったのは、エメラルドの瞳。 衝撃のあとはもうドラマのようだった。最初に中学生のような子供が出てきて、次に赤い長髪の人とお坊さんの格好した美人が出てきて、あっという間に5匹のケモノを倒してしまった。 え? 何、これ。 なんかの撮影? いやでもここ元の世界と違うし。 え? 倒された身体をのろのろと起こす。あたしを引き倒した人は、そのままあたしの前から動かずにいた。ケモノたちが地面とこんにちはしたことを確認すると、くるりと振り返った。 「大丈夫でしたか?」 優しげな声だった。今の状態がいまいち把握出来ず、若干戸惑いを隠せないまま無意識に頷く。 「よかった。声が聞こえて駆け付けたんですが、間に合わなかったらどうしようかと思いました」 安心したように微笑むと、立ち上がるのに手を貸してくれた。そして、倒れたときについた葉っぱやら埃やらを落としてくれる。 「・・・・・・・・・ま・・・・・・」 「はい?」 自然と口から溢れていた言葉。 高まる鼓動。 上昇する体温。 そう、仕組まれたような出会い。 これがあたしたちの始まりだった。 「の王子様・・・!」 |
Walk alone 1
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-------------------- おうじさま(震) 20110210 |