「ねーカミュ」

「なんだ」

「氷河の誕生日、何あげるの?」

まるでこの世の終わりのような顔で見つめられると、なんだか私が悪いような気がしてしまう。






両手に溢れんばかりの愛を





最近、クールという仮面に亀裂が入っているんじゃないかと思う。無表情だ鉄面皮だと云うけれど、だってカミュはこんなに表情豊かだ。
ティーカップを持つ手がわずかに震えているのはきっと気のせいではない。読んでいた本が手から滑り落ちたことには気付いているだろうか。
バサリと音をたてて本と床がご挨拶して数秒、停止したままフリーズしてしまったカミュに代わって本を拾い上げる。ちらりと目に入ったタイトルは『弟子と私』。自著か?いや、私は何も見ていない。とゆうかカミュにはもっと知的な本を読んでいて欲しかった。なんとなく。
そっと裏表紙を上に、且つカバーを反対側に向けて本をテーブルに置くと、ガシッといきなり腕を掴まれた。
驚いて反射的に手を引こうとするも、そこは相手は聖闘士。中でも最強を誇る黄金聖闘士だ。敵うはずもない。

「な、何?」

と、カミュを見て、私は見てはいけないものを見てしまった気がした。
―――涙目?
深紅の瞳がやけに煌めいて見えるのは気のせいだと誰か云ってくれ。なんでこんなときに限ってミロは任務なんて行っているんだろう。理不尽に腹が立ったので、帰ってきたらご飯を奢らせようと思う。
そんな逃げ出したくなっている私の心境を知る由もないカミュは、捲し立てるように口を開いた。

「忘れていた」

「………」

「私としたことが、愛弟子の誕生日を忘れていたのだ」

「さ、最近までずっと忙しかったんだし、仕方ないんじゃ…」

「だがは覚えていただろう」

「はぁ、まぁ……」

が覚えていたのに師である私が覚えていないとは言語道断なのだ、由々しき事態なのだ!こんなこと、女神が許しても私が許せない……」

酷い云われようだなぁ。
というか、常々私は一体どんな目で見られているのか非常に気になった。フォローしても泥沼化するカミュの思考が心配だ。
本気で頭を抱え込んでしまったカミュを冷静に見つめながら、まぁ、ほんの少しなら気持ちはわからないでもなかった。もし私が弟の誕生日を忘れてスルーなんてしたら、絶対に落ち込むからだ。普段クール(?)なカミュが我を忘れるほど取り乱すようなレベルまではいかないと思うけれど。
ところで、カミュが氷河の誕生日を忘れていたことで、ちょっと私も困ってしまった。なぜなら、私は氷河の好みをまったく知らないのだ。その点カミュなら数年間一緒に暮らしていたし、何を欲しがりそうかわかると思った。なので、カミュの選んだプレゼントを参考に何かしようと思っていたのだ。
しかしプレゼントは用意していなくとも、好みくらいはわかるだろうと思い直し、まだウンウン唸っているカミュに声をかける。

「ね、氷河って何か好きなものある?」

「母親だろう?」

「あげられないじゃん」

「確かに」

うむ、と数度頷き漸く顔を上げたカミュは、真顔で云った。

がなればいい」

落ち着いたのかと思ったら、相当ダメージは大きかったらしい。まだ頭がショートしているようだ。そうに違いない。そうでなければカミュがこんな発言するはずない。とゆうか、するな。
が、絶句して言葉を返さない私に、聞こえていなかったのと勘違いしてくれたらしいカミュは、もう一度、云ってくれた。

が氷河の母親になればいいだろう」

「はっはっはっはっ、なれるか!!!」

「なれる、なら」

「何その根拠のない自信?ていうか、5つしか違わない子の母親なんて嫌なんですけど!」

「そういう問題なのか」

「そーよ!何考えてんの、ホントに……」

まったく本当に、弟子が絡むと途端にクールを忘れるカミュには呆れる。弟子が大好きなのは結構だし微笑ましいとは思うけれど、ちょっと魔鈴星矢師弟を見習ってもいいんじゃないだろうか。二言目には『死ねば』と吐き捨てる魔鈴のクールさは、きっとカミュ以上だ。
普段は冗談なんて云うキャラではないし、多分今も冗談で云ったわけではないのだろう。だから余計に性質が悪いわけだけど、一体なんのつもりなのか。
なにやら思案げに視線を中にさ迷わせているカミュを観察していると納得したようにまた頷いたカミュと目があった。またもや嫌な予感しかいない。

「問題ない」

お前の頭には問題がある。
再び絶句した私に、カミュはさわやかな笑顔で云った。

「何も本当の母親になるというのではない。氷河の誕生日だけ、演じればいいのだ」

「……はぁ?」

「一日限定で、母親好きの氷河のために、が母親を演じるのだ」

いかにも良い考え、というように自信満々に云うカミュに、やはり言葉を失った私は、しかし一応頑張ってカミュの云った事を理解する努力してみた。
つまり、プレゼントの代わりに、一日お母さんをやるのはどうか、ということだ。
まぁ確かに氷河が、今はシベリアの冷たい海に沈むマーマをとても愛しているというのは知っている。ぶっちゃけマザコンだ。聖闘士になった理由が、そのマーマを引き上げたいから、というのだから、相当なマザコンだ。
が。
それは、別に母親なら何でも好き、というわけではないと思うのだけれど。
氷河は氷河のマーマが好きなわけであって、母親になってくれる人間を好きになるとはちょっと違うと思う。
だいたい、もし私がその案を採用したらカミュはどうするんだ。カミュも母親になるの?ちょっとぞっとしない。

「だったらカミュは、父親よね…」

「は?」

「いやこっちの話」

なんでもない、と力なく手を振る。我ながらいけない考えだ。カミュのショートがうつったかな?そんなわけない。
と。カミュの阿呆な発言は早々に却下、と思ったのだけれど。
しかし、前向きな考えようでは、ちょっとおもしろくないか?
私が母親役で、カミュが父親役、氷河が子供役のちょっとした一日疑似家族ごっこ。

「……カミュ」

「なんだ?」

「ザッくんも呼ぼうか」

この瞬間、私の中で疑似家族のシナリオが出来上がった。


*****


「やめましょう」

ポセイドンとカノンに無理矢理頼んで聖域に寄越してもらったザッくんは、しかし私とカミュの話を聞いて、真顔でそう云った。
てっきり『それは良い案ですね!』と賛成されるとばかり思っていた私たちは、その言葉を聞いて少なからずショックだった。だって真顔って。苦笑いしながら云われるよりダメージが大きいのはなぜかしら。

「なんで?駄目?」

「駄目というか…何故そんな馬鹿な案が出たのか純粋に不思議です」

「馬鹿げた…」

「カミュが云い出しっぺなんだけど」

「…我が師……!!!」

ガクリ、とザッくんは肩を落とした。そんなに落ち込むことはないと思うんだけど。まぁでも、自分の師匠がこんなこと云い始めたなんて知ったら確かにショックは受けるかもしれない。なまじ、カミュの性格を考えれば余計だろう。ちなみに『馬鹿げた』と素で云われたカミュも落ち込んでいた。慰めない。
しかし今はショックを受けているザッくんを眺めてかわいいなぁなんて思っている場合じゃないのだ。
何せ氷河の誕生日はもう明日なのだから。
ザッくんを寄越してもらう時間とか、カミュとあーだこーだと疑似家族シミュレーションをしていたらいつの間にか軽く数日過ぎてたから不思議だ。人間夢中になると時間感覚が麻痺するって本当だってことを身を以て知ってしまいました。
そういうわけで、すでに私とカミュはザッくん込みで疑似家族のシナリオが出来上がっていて、あとはザッくんがうんと云ってくれれば完璧だったのに。
断られるのは予想外だった。

「ザッくんは氷河のお兄ちゃん設定だよ?きっと楽しいのに」

「アイザックです!そういう問題じゃありません!」

「ではどういう問題なのだ」

「なんであなたはノリノリなんですか…!」

「云い出しっぺだからな」

さらりと、しかし若干いじけたように云うカミュに、またしてもザッくんがガックリと肩を落とした。ちょっとかわいそうだ。

「じゃあさ、ザッくんは氷河に何をあげるつもりだったの?」

「ですから、俺はアイザックです…」

「オッケーザッくん、で?」

「…………。…前に好きだと云っていた銘柄の紅茶を」

「え、何それつまんない!」

「!!」

「せっかくの誕生日だよ?もっと楽しいのがいいよ!」

「そうだぞ、アイザック。ここはクールに頷いておけ」

「お言葉ですがカミュ、そればっかりは頷けません」

カミュの説得にも首を振らないとは、ザッくんも結構頑固だ。
だがしかし、こちらも必死なのである。誕生日は明日、物理的なプレゼントは用意していないこの状況。はっきり云って、ギリギリです。
絶対に御免です、とやや顔色を悪くしているザッくんを前に、ちらり、とカミュを見るとぴたりと目があった。そして、頷く。この瞬間私とカミュの心は完全に通じ合った。
小さくカミュと頷き合い、私はにっこりと笑顔で、隙あらば逃げ出そうと云わんばかりに臨体制でいるザッくんに近付く。軽く頬を引きつらせていたような気がするけど、今は見なかったことにしておこう。

「な、なんです?」

「ザッくん」

「ですからアイザック…もういいです…」

「どうしても嫌?」

「嫌です。いくらさんとカミュの頼みでもきけませ…」

「どーぅしても?」

「っ!」

必殺、上目遣い。
もとから身長差があるので、ただでさえ見上げなければまともに目が合わないザッくんに、これでもかというほど近付く。というか、その逞しく鍛えられた腕に抱きつき、真下から見上げた。
幼い頃から修行ばかりで女っ気など皆無で、海底に行ってからはテティス以外の女の子とは接触がなく、平和な世の中になった今もほとんどを海底で過ごしているザッくんに、女の子に対する免疫がないことなんてお見通しだ。ついでに私は、多少男の子からは気に入ってもらえる容姿をしているのだとミロやらアフロディーテやらに云われ続けていた。ならばこれは利用しない手はない。
つまり、色仕掛け。
出来ればあんまりやりたくないことだったけど、背に腹は代えられない。何度も云うが、こちらも必死なのだ。

「嫌?」

「……嫌です!!」

案の定顔は真っ赤にしてフリーズしたけど、次の瞬間には思いっきり引っぺがされてしまった。 チッ、失敗か。
というわけでチェンジ、カミュのターン。

「女子に対してそのような乱暴なことをしろと教えたことはないのだがな」

「か、カミュ……!」

「いつからお前は私の教えを違えるようになったのだ」

「じょ、女子に対する教えなど受けたことは…」

「黙れ、アイザック」

「ハイッ……」

「そういうわけで、やってくれるな?」

「嫌です」

「…………」

続く師匠権限乱用作戦も駄目だった。
結構さっぱり断ってくれた。頑固すぎる。

「もー!どうしたらうんて云ってくれるの!?」

「どうしたってうんとは云いません!!」

「頑固者め」

「あなた方に云われたくありません…!!!」

「えー。じゃあせめて、私たちのシナリオ聴いてよ」

「シナリオ?」

「ね、それからでも遅くないよ!」

「そうだな。それからもう一度考えればいい」

「え、ちょ…」

「というわけで、はいドン!」

事態を把握できず固まっているザッくんをさておき、ドン、と私はここ数日カミュと温めていたシナリオを取り出した。


*****


シベリアの永久凍土、本来ならば人間など存在しないであろうここに、やや場違いとも云えるような建物がぽつんとある。
赤い屋根、白い壁の、決して大きくはない家。ここには4人の家族が仲良く暮らしていた。
父は子煩悩で、目に入れても痛くないと云うほど息子たちを可愛がっていた。
母も子煩悩で、目に入れても痛くないと云うほど息子たちを可愛がっていた。
長男は弟が大好きで、目に入れても痛くないと云うほど弟を可愛がっていた。
次男は家族みんなから愛される幸せ者で、惜しげなく自分を愛してくれる家族が大好きだった。
喧嘩などには縁のない家族は、毎日幸せな生活を送っている。

「では仕事に行ってくる」

「ええ、いってらっしゃいな」

「お父さん!今日は早く帰ってこられる?」

「ああ、勿論だ」

「ふふ、今日は氷河の誕生日だものね」

「おいおい、父さんがお前の誕生日なのに遅くなるわけないだろ?」

「その通りだ」

「やったぁ!」

「もう、この子ったら。あなた、遅れますよ」

「そうだな…では、お前たち、良い子で待っているんだぞ」

「はい、父さん、気を付けて」

「いってらっしゃい!」

父が仕事に出るときには家族で見送り、そのときは一人ひとりの頬にキスをしてから出発するのが常だった。
特に今日は、家族の愛する次男の誕生日なのだ。可愛い我が子、そして愛すべき弟がこの世に生まれた日がめでたくないはずがない。
誰もがこの日を、大地の女神に感謝し、祝福していた。

「さぁ、お父さんが帰ってくるまでにお祝いの準備をしなくちゃ」

「手伝うよ、母さん」

「俺も!」

「氷河は今日の主役なんだから、外で遊んでこいよ」

「えー?俺だけ仲間外れなんて嫌だよ!」

「まぁ、仲間外れなんて。そんなわけないじゃないの」

「そうだよ。主役がお祝いの準備なんておかしいだろ?」

「でも…」

母と兄が準備をするのに、いくら自分が主役であるとはいえ、手伝いもせず遊んでいるなんて氷河には出来なかった。
ほんの少し涙目になってごねる愛息子と弟を見、母と兄は顔を見合わせて笑った。こういう優しく寂しがり屋なところも、氷河の愛すべき性格なのだ。

「じゃ、みんなでやりましょうか!」

「えっ?」

「主役のあなたがそんな顔するんじゃ、しょうがないわよねぇ」

「マーマ…」

「氷河、俺たちは氷河が嬉しいのが一番嬉しいんだよ」

「アイザック…」

「さぁ、張り切って準備しなくちゃ!」

「足、引っ張るなよ?」

「ひ、引っ張らないよ!」

兄にからかい口調で云われた氷河は、ちょっとムキになって云い返すが、一枚上手を行く兄は笑って氷河に手を出した。
氷河は一瞬戸惑ったが、やがて照れたように手を取り、二人駆け足で家の中に入っていった。
そんな兄弟の微笑ましい光景を母はゆったりと笑顔で眺め、我が子への愛しさを噛み締めていた。

これは、シベリアの氷点下にも負けず、家族愛を育む4人の絆の物語である。


*****


アイザックがいてくれてよかった。
氷河は今まで以上に、兄弟子のありがたさを実感していた。

「まだ序章なのに、ここまで話したところでザッくんが泣いて縋って『もうやめてくれ!』って懇願してくるから、さすがに可哀想になっちゃって」

「これしきの事で泣くとは、まだまだクールでないな、アイザックも」

「…理不尽だ……」

至極残念そうにため息をつく二人に、アイザックでなくてもこれは泣くだろう、と氷河は思った。思ったが、それを云う勇気はなかった。氷河に出来たのは、憔悴しきっている兄弟子の肩を叩くことだけだった。
現在場所は変わらず宝瓶宮であるが、日付はすでに変っていた。
1月23日、氷河の誕生日当日である。
リビングのテーブルにはこれでもかというほど大量の料理が並んでおり、そのどれもが氷河の好物だった。カミュとの二人が、氷河のために作ったのだ。
の云うように、あれからアイザックに泣いて縋ってそれだけはやめてくれと頼まれた二人は、かなりの未練はあったものの、氷河よりずっとクールで、カミュよりも更にクールであると思われるあのアイザックが泣き縋るということは余程駄目なのだろうちょっとショックを受け、シベリア疑似家族計画は白紙に戻すことにしたのだった。

「『シベリアの家に来てみたらなんとビックリ!あったか家族が待ってたよ、ドッキリ☆家族計画』。良い考えだと思ったんだけどなぁ…」

「思いこみです」

「アイザック」

「すみません」

もう嫌だ、と小さく、本当に小さく兄弟子が呟いたのを氷河は聞いた。あまりに小さかったその呟きは、恐らく心の底からの叫びなのだろう。仮にこの計画が実行に移されていたら、自分も同じような心境になるのだろうと簡単に想像できるあたり、末恐ろしい。
しかし、今の疑似家族シナリオを聴いていて、ふと思う。

、カミュ」

「ん?」

「どうした」

気付いてしまった点は、多分、致命的だったと思う。

「それ、俺も把握してないと成り立たないシナリオですよね?」

フリージングコフィンでも喰らったかのように、二人は固まった。
確かに、そこまで細々とシナリオ設定をしているならば、ドッキリは絶対に無理だ。うきうきと家族の細かい設定まで説明されたときは単に記憶が遠のいただけだったが、冷静に考えれば、知らなければシナリオ通りに氷河が動けるはずがないのだ。他の三人だけが設定を頭に入れて氷河だけがアドリブ芝居というのはシュールすぎる。

「…あの……?」

やはりまずかったらしい。
かなり楽しくシナリオを練っていたらしい二人は、最大の失敗とも云える点を指摘され、これでもかというほど悲愴な表情を浮かべていた。というか、はともかく、カミュまでこんなものを考えていたのかと思うと泣きたくなるのは氷河だけではないはずだ。

「わ、私たちの計画、最初から躓いてたわけ…!?」

「私としたことが…誤算だった……」

本気でショックを受けているようだ。
云ってはいけないことだったのだろうかとオロオロしていると、ポン、と肩に手が乗る。振り向けば、漸く復活したらしいアイザックだった。

「お二人とも、肝心なことを忘れていませんか?」

「何!?ドッキリ不可能に気付かなかった以上に肝心なこと!?」

「一体何なのだ?」

この馬鹿どもが!
と、立場も身分も忘れて怒鳴りつけてやりたかったが、アイザックは非常によく出来た子なのでそんなことはしなかった。自分の中だけで散々カミュとを罵ってから、ズイ、と氷河を指差す。

「今日は氷河の誕生日です」

「知ってるわよぅ」

「当然だな」

「では、氷河が嬉しいのが一番なのではないですか?」

「…アイザック」

その言葉に、ハッとしたようにカミュとは顔を見合わせた。
そうだ。
自分たちは計画の挫折とドッキリ不可能の現実に目を奪われていたが、本来の目的はそれではない。
今日という日に生を受けた氷河を喜ばせたくて、計画を始めたのではなかったか。
アイザックの言葉に目を見張らせた氷河は、しかし小さく微笑んで頷いた兄弟子に頷き返し、カミュとを見た。

「俺は、特別なことをしてくれなくても、こうしてみんなが俺を祝ってくれるだけで十分嬉しいです」

今までは修行や聖戦のお陰で、時には自分の誕生日を忘れる年すらあった。
それが、今ではこうして師と兄弟子と、自分を可愛がってくれる人が、一生懸命自分のために何かをしてくれようと考えてくれる。
幸せだ。
これを幸せと云わず、一体何を幸せと云えるだろう。
大切な人たちが傍にいてくれる。
笑っていてくれる。
自分が愛されている。
これ以上の何かを求めるほど、まだ自分は欲深ではない。

「ありがとうございます、お二人とも」

妙なことを考えたものだとは思ったが、それも自分のためのことだと思えば微笑ましく嬉しいことだ。実行されなくてよかったというのは掛け値ない本音ではあったけれど。
笑顔で礼を云う氷河と、その後ろで満足そうに微笑んでいるアイザックを見、再び顔を見合わせたカミュとは、数度瞬きをしたあと、噴出した。
自分たちはどうやら、この子たちを子供だと思いすぎていたようだ。
本当はずっと、自分たちが思うよりもずっと、成長していたのに。
なんだか、自分たちのほうが子供のように思えて笑えてしまった。
ひとしきり笑った二人は、気を取り直して立ち上がる。

「さぁ、ご飯が冷めちゃう」

「腕によりをかけたんだ、温かいうちに食べなければな」

「そうですね」

「はい!」

氷河が嬉しいのが一番。
そんな当たり前のことを忘れかけていた自分が恥ずかしくなったが、氷河はそんなことも含めてありがとうと云ってくれた。
ならば、今度は忘れない。
アイザックも巻き込んで作った料理を、みんなで囲む。
本当の家族ではないけれど、きっと自分たちは家族以上に強い絆で結ばれている。
考えてみれば、疑似家族ごっこなんてしなくても、すでに自分たちは似たようなものなのだ。今更だと云えば今更のことだった。
氷河の隣にアイザック、正面にカミュ、対角にが座り、グラスに低アルコールのワインを注ぐ。未成年だが、今日だけは無礼講だ。
特に口にしたわけではないが、カミュがグラスを掲げると三人もそれぞれグラスを掲げる。

「氷河に」

アイザックが云い、

「今日という日に」

が続き。

「乾杯」

そしてカミュが。

「ありがとう」

一生忘れない誕生日だと、氷河は笑った。










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長かった…!ていうか間に合った…!!!(咽び泣き)
というわけで、今日1月23日は氷河の誕生日です!!クリスマスじゃないよ☆笑

顔は良いけどマザコンだし、声も好きだけど(というか橋本さんが好き)なんかあんまり好きになれないな、なんて思っていた私でしたが、OVAを観た瞬間恋に落ちました。

『焦るとまた、転ぶぜぇ!』

もはや伝説。
なんて?なんて????
橋本さんじゃなければ張り倒しているセリフです。もういい、許す!!
あれ以来、やたらと氷河とか白鳥とかの単語に過剰に反応してしまいます。これはきっと恋です、はい。(思いこみ)

マザコンでもなんでも、あほなこと云ってもなんでも、すべてが氷河の魅力です!大好き!!

お誕生日、おめでとうございます!!!








【おまけ】



「そういえばザッくん」

「はい?」

「シナリオの中にも『氷河が嬉しいのが一番』ってセリフあったよね」

「え!?」

「嫌だ嫌だと云ってもちゃんと聴いてくれてたのね!嬉しい!」

「ちょ、ちが、誤解…!!」

「ねぇカミュ、ザッくんが!」

「誤解です!!!!」

(もうこの人嫌だ!!!!)





とか云いつつ大好きなんだよ^^ 恋愛感情は微塵もないけど!
仲良し!

以上、お粗末さまでした!