先月、1月23日は白鳥座キグナス氷河の誕生日。 そして今月、2月7日は、その師である水瓶座アクエリアスカミュの誕生日。 自分の誕生日を師カミュ、兄弟子アイザック、さらにある意味特別な存在であるの三人に祝ってもらった氷河は、来る師の誕生日、自分は一体どうすべきか考えた。 単にプレゼントを渡すだけでは物足りないような気がしてならないのだ。自分の誕生日をあんなに賑やかに――騒がしいほど、とは云わない、断じて――祝ってもらったのだから、同じように楽しく、出来れば盛大に祝いたいと思う。 とはいえ、聖闘士であっても所詮日本では城戸邸に厄介になっている中学生の身。最近では殆どギリシャの自宮で過ごしている師を直接祝うのは難しいのが現実だ。 多少諦めきれない部分はあるものの、仕方がない。せめて心のこもったプレゼントを贈ろう。 そう決め、まだ多少日はあるが師へのプレゼントを選びに行こうと、出掛ける準備をするべく軽く腰を持ち上げたとき。 「氷河、ザッくんつれてきたよ!!」 |
君に届け!
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「よし、じゃあメンバーも揃ってところでカミュ誕生日どっきり☆計画を練りますか!」 「…………」 「ん?氷河、何ボーッとしてんの?座って座って」 持ち上げかけた腰を再びソファに下ろし、正面に笑顔の、隣に渋面のアイザックが座るのを、氷河はまるで他人事のように見ていた。 しかし決してボーッとしているのではない。 見た目とは裏腹に、今氷河の頭はすごい勢いで回転していた。 たまたま女神の護衛でギリシャへ行っていた自分の誕生日のあと、用事が済んだ女神と共に日本に帰ってきたのは数日前。 見送りに来た師や兄弟子、に笑顔で別れを告げたときは別に彼女は日本に来る予定など話していなかった。とゆうかも聖域でそれなりの仕事をしているはずで、そうそう暇ではないはずなのだ。 アイザックにしても、ポセイドンのもとですべきことは山ほどあるわけだし、聖闘士と違い海闘士は少人数だから決して暇なわけはない。 だというのにもアイザックも、自分の誕生日のために事前準備をし、あまつ今回はさっくりと国境を越えてきた。 暇なのか? 忙しいはずだというのは思い込みなのか? いや、けれど先日は師も兄弟子も多忙であることを確かに話していた。 では何故。 まぁそれは置いておくとしても、何故日本に来たのか、何故アイザックを連れてきたのか、何故どっきりなのか、何故懲りないのか、あれは何故、これは何故、考え始めると止まらない。 何はともあれ、疑問は口にしてみることにした。 「何故」 「え?」 問うべき問題が多すぎて、それしか言葉が出てこなかった氷河だった。 とりあえず、当たり前のように寛ぐに。 「何故日本にいるんです?」 問えば。 「え、だってもうすぐカミュの誕生日じゃない?」 答えになってない。 しかしすっとぼけている様子はないし、はそんな性格ではないことを知っている。 カミュの誕生日が近いことはわかっているが、何故それとが日本にいることが結びつくのか。 そこが問題なわけだが、問うていながらなんとなく氷河には予想がついていた。 出来れば的中してほしくない予想だが、きっとそんな自分の願いを聴いてくれる神はいない。 「…」 「うん?」 「まさかあなた、カミュの誕生日の計画を立てるためだけにわざわざ……?」 「まっさかー!」 と笑ってくれたらよかった。 だが、まっさかー!と云って笑ったのは氷河の頭の中に存在する偽物のだけで、現実のは、きょとんと目を瞬かせ、軽く首を傾げて云ったのだ。 「そうだよ?」 脱力。 当たり前じゃん、とまで云われ、氷河は全身から小宇宙が逃げ出しているような感覚に陥った。ついででもいいから他の青銅の様子見とでも云ってくれ。 しかし、この間の自分の誕生日の件を思い出してみれば、確かにならやりかねない。 身近な人物の誕生日を祝うために、しかもその準備のためだけならば、軽く国境くらいは越えかねないのだ。なまじ、それが簡単に出来る能力を持っているから問題だ。 そうだ、はこういう人だ。 深呼吸という名の巨大なため息を吐き出した氷河は悟った。相手はなのだ。それを踏まえて話さないと、脳みそと心臓がいくつあっても足りない。 「ところで…」 について諦めがついたあとに気になったのは、もちろん兄弟子アイザックである。 はこの通りどこへ行っても自由で、おそらく聖域は『ちょっと出掛けてくる』くらいの気軽さで出てきたのだろう。 しかしアイザックはそうは行かない。 ただでさえ人数の少ない海闘士の、海将軍なのだ。ポセイドンが常駐しているわけではないし、筆頭である海龍のカノンも聖域と海底を行ったり来たりの生活をしているので、残りの海将軍の仕事は結構重要だったりする。 そして、この表情。 アイザックの性格上、恐らくに頼まれたら断ることは難しい。 が、それも時と場合による。 前回は問答無用で拉致してきたようだが、まさか今回もそうなのだろうか。 ちらりと兄弟子を見ると、視線に気付いたアイザックは不本意そうに口を開いた。 「……カノンに売られた」 穏やかではない。 いまいちよく意味がわからず視線で先を促すと、苦虫を噛み潰したような顔で兄弟子は云う。 「さんが、カミュの誕生日の準備をするから一緒に日本に行こうと云ってきたんだが、俺は仕事があるし、そうちょくちょく海底を空けているわけにはいかないだろう」 「…ああ」 「だから例え俺がよくても、カノンが許すはずないと云ったら」 聞きながら展開が予想出来てしまったことが些か哀しい。 頷きながら、兄弟子が不憫に思えて仕方がなかった。 「カノンのやつ…!」 思い返しても腹立たしいのだろう、真っ白になるほどキツく拳を握り締めたアイザックは、地を這うような声を絞り出した。 「『に振り回されているお前を見てるのが面白いから行ってこい』と、笑いながら云ったんだ……!」 俺に選択肢は、いや人権はないのか!? アイザックの嘆きを氷河は他人事と思えず聞いた。不憫だ。不憫すぎる。 下手に慰めることも出来ずに苦笑いを浮かべていると、先ほどまで黙ってこちらを見ていたがプゥッと頬を膨らませ不満げに口を開いた。 「何よぅザッくん、それじゃ私が悪いみたい」 「自覚ないんですか」 思わず返したアイザックに半眼になったの視線が突き刺さる。ある意味効果は抜群だ。 「だってどうせザッくんもお祝いするつもりだったでしょ?ならみんなで楽しくやったほうがいいじゃない」 それは確かにその通りなのだが。 恐らく、今回のように愉快犯なカノンに売られたのでなければアイザックにも文句はなかった。誘われ、一度は断ったが、それでもに食い下がられたら最終的には一緒に日本に来ていただろう。 しかし、残念ながら現実は、面白いからの一言であっさりとカノンは自分を売った。 アイザックがいなければ困るから遠慮してくれとか、そういうことは云ってくれないのか、とアイザックは不満だったのだ。酷く子供っぽい拗ねだが、彼自身は気付いていなかった。 が、何を云っても彼はすでにここまで来てしまった。来るときはのテレポーテーションで一緒だったからギリシャの海底から日本の城戸邸まで一瞬だったが、帰るとなると、アイザック一人のテレポーテーション能力では海底神殿まで半日はかかるだろう。つまり今更一人で帰れば、半日を無駄にすることになる。それは勘弁願いたかった。 納得いかない点はあるものの、いつまでも不満顔でいるわけにもいかない。 深い深いため息を溢したアイザックは、いろいろと諦めることにした。どうせ、とカノンには敵わないのだ。 「……で、どっきり計画がなんです?」 「あ、何よ実はノリノリじゃない!」 あなた相手に抵抗は無駄だと悟ったんです、とは云えない。代わりに遠い目で微笑んだ。隣に座る弟弟子の生温い視線が胸に痛かった。めげてはいけない。 諦めという名の受け入れ体制に入った兄弟弟子の心境など知る由もないは、楽しげにポンッと両手を合わせた。 「本当はね、氷河のときに使えなかったシベリアンファミリーに再チャレンジしたかったんだけど」 「やめろ」 「……ってザッくんに云われると思ったから、今回は水瓶座っぽく演出したいなって思うの」 思わず敬語が吹っ飛んだアイザックであった。 やめろと云った瞬間の視線が突き刺さったが、それは恐らく言葉遣いではなく、彼女の予想通りの言葉を発したからだろう。わかってるなら最初から云うなとは云えない。 しかし引っ掛かるのは水瓶座っぽく、という言葉だった。 やはり嫌な予感しかしない。 二人は軽く頬を引きつらせた。これ以上聞くのは危険な気がするのだ。 「水瓶座の由来になったガニュメデスの話は知ってるでしょ?ゼウスに気に入られたガニュメデスが、天界に攫われるってやつ」 攫われる。 というかそれではまるでゼウスが単なる誘拐犯に聞こえてしまうのだが。 そして止まらないは、とてもとてもにこやかに、云う。 「だからね、今度の誕生日、カミュを天界に誘拐しちゃおうかと思うの!」 それで、天界でお祝いするのよ! 楽しげに云うの台詞を理解するのに、数十秒の時間を要した。 水瓶座っぽく。 ゼウスに誘拐されたガニュメデス。 次の誕生日。 「…ええと……」 「………?」 「何?」 可愛らしく小首を傾げる。 首を傾げたいのはこちらのほうだった。 「…攫う?」 「うん!」 「…カミュを?」 「そう!」 「どこに…?」 「天界に!」 「……………」 一呼吸置いて、氷河とアイザックは声を揃えた。 「馬鹿か!!?」 「どこの世界に誕生日の人間を誘拐する計画を練るやつがいる!!?」 「だいたい天界に誘拐してどうするつもりだ!ガニュメデスよろしく俺たちの師匠をゼウスに献上するつもりか!?」 「ち、違うよ!」 「じゃあなんだ!!」 「そもそもカミュが大人しく誘拐されると思ってるのか!?カミュだぞ!?俺たちの師匠だぞ!!?黄金聖闘士だぞ!!!」 「だからそこはほら、シオンとか童虎に協力してもらって」 「そんなことあの人たちにさせられるか!!!」 立場もくそもあったものではない。が女でなければ完全に殴っているところだった。 悪気があるわけではないのはわかっているのだが、仮にも自分たちの師匠の誘拐計画を立てられて(しかも決行日は誕生日)心穏やかでいられるはずもない。 「そんなに怒ることないじゃないのよー!」 「怒るに決まってるだろうが!!」 は何故かイベントごと、特に誕生日となると異様なまでに盛り上げようとする嫌いがある。それが悪いことだとは云わないが、今回ばかりは黙っていられない。 まさか一介の聖闘士のために天界まで巻き込むわけにはいかないし、いろんな部分でまずいことになることはわかりきっているのだ。は自分の周りへの影響力を、わかっているようでわかっていない。 と、思わず立ち上がって声を荒げてしまった二人だったが、ここまで反対されると思っていなかったが目に見えてしょんぼりとしてしまったことに気付いて慌てた。断固として反対ではあるが、別にを哀しませたいわけではなかった。 しかし。 「普段あんまり表情変えないカミュの盛大に驚いた顔が見たかったのに」 「いい加減にしろ」 前言撤回だ。もしかしたら単なる悪ふざけで云っているのかもしれない。 頬を膨らませて半眼になる目の前の女性は、本当に自分たちよりも4つも年上なのだろうか。 「じゃあ二人はどうしたいの。私の意見ばっかりじゃない」 というか勝手に計画を立て始めたのはなのだが。とは云わない二人は大人だった。 顔を見合わせたアイザックと氷河の心は一つだった。 「がご馳走を作って、」 「俺たちがプレゼントを用意する」 至って普通だ。 しかし、普通が何より一番なのだ。 多分カミュは、例え誘拐が実行されたとしても自分のために――それにしても誘拐はどうかと思うが――考えてくれたことだとすれば喜ぶのだろうし、聖域海界冥界の三界あげての祝い事になったとしても、複雑な気分にはなるだろうが喜ぶのだろう。 は誕生日には特別なことをしたがるが、別に特別なことなどしなくても、祝ってくれる人がいるだけで嬉しいものだ。 特に自分たちは、つい最近まで聖戦だなんだと闘い続きだったり死んだり生き返ったりと、誕生日だイベントだと騒ぐことなど一切なかった。 それが、のお陰で誕生日だ正月だと、みんなでわいわい、それこそ三界入り混じって出来るようになったのだ。それだけでも、十分には感謝したいところだった。なぜなら過去には考えられないような出来事なのだから。 「…普通ね」 もそれはわかっている。闘いが終わり、復興作業にはまだまだ時間がかかるが、その合間にでも何か気分転換に楽しくなれることをしたいという思いから、彼女は動いているのだ。 「普通です」 アイザックと氷河の表情を見れば、云いたいことはわかる。それくらいの信頼関係は築いているつもりだ。 だからは、勢いよく背中をソファに預けて笑った。 「じゃ、普通でいっか」 「普通でいいんです」 「…やけに普通を強調してくれるわね?」 「あなたを放っておいたら普通じゃなくなりますから」 「ちょっと氷河、この酷い子どうにかして」 「すみません」 「何!?何に対する謝罪!?」 「俺もアイザックに同意です」 「味方がいない!!」 四面楚歌だ、と嘆くを見、ああ平和だなと二人は思った。多分この人がいればもう争いは起こらないのだろうと、そんなことまで思ってしまった。それはきっとあながち間違いではないのだろうけれど。 結局、それから三人でカミュの祖国であるフランス料理と、師弟として思い出深いであろうシベリアの料理を何点かピックアップし、数日後に迫った彼の誕生日にが腕をふるうことを決めた。 ちなみに場所は、城戸邸である。前日まで氷河は学校があるし、カミュにばれないように準備するには丁度いいからだ。沙織は間違っても反対しないだろう。 アイザックは、もうどうにでもなればいいと半ば自棄になっていた。合掌。 当日は、まぁ最初にが云っていたように軽く誘拐になってしまうが、が適当なことを云って一緒にテレポーテーションしてくれば問題ないだろう。山積みだという言葉は聞きたくない。 「さて、料理はこれでいいとして」 最大の問題はプレゼントだった。 は成人した男の人が喜ぶようなものは見当がつかないし、アイザックや氷河にしても、修行ばかりに明け暮れていたおかげで一般男子の思考は持ち合わせていない。 「何がいいだろうね?」 「花とか」 「花」 「…云ってみただけだ」 口にしてから、柄ではないと気付いたのだろう。きょとんとした氷河の復唱を聞いて、アイザックは若干気まずそうに眉を顰めた。 はというと、ふむ、と顎に手を当て思案している。 「2月7日の誕生花は、確かヒヤシンスだったかな」 「…そんなことよく知ってますね?」 「うん、シュラが詳しいからね」 聞きたくなかったそんな事実。 彼らの知るシュラからそんな話が想像できなくて、二人は反応できずに固まった。気にせずは続けた。 「あー、でもやめたほうがいいかも」 「どうして?」 「花言葉がね」 「まずいんですか?」 軽く首を傾げた二人を見、半笑いでは答えた。 「『悲哀』」 「…ああ……」 「…それは……」 「微妙でしょ?」 間違っても誕生日に贈るべき花言葉でないことは確かだった。 しかし考えてみれば、氷河の誕生日のときもそうだったが、まともに誰かにプレゼントを贈ったことがないのだ。 はシュラの誕生日のときはいろいろ買っていたようだが、それは彼がわかりやすいものが好きだったからというのもある。 カミュの趣味や好きなものとは。 修行、弟子と親友。 買えない。 というか、買えたとしても買いたくない。 「うーん、どうしようねぇ…」 適当に買って喜んでもらえなかったらがっかりだ。秘密にはしたいが、ちゃんと喜んでもらえるものを贈りたいと思うのは当然だった。 ふと時計を見れば、とアイザックが城戸邸に来てからすでに数時間が経過していた。 いくらふらふらしているとはいえ、学校が休みな氷河はともかく、二人ともそれぞれの場所でちゃんとした仕事を持っている身である。あまり出掛けっぱなしでいるわけにもいかない。 「一応まだ時間あるし、いったん解散して各自考える?」 「そうですね…今この場じゃ、もう案は出そうにありませんしね」 「じゃあ俺は街で何かないか探してみます」 と、また近いうちに集まることにし、とりあえず今は解散することにした。 そうなれば早いところ持ち場に戻ってやることはたくさんある。特にアイザックは海に戻れば山ほど嫌がらせのような書類が溜まっていることだろう。それを考えると一瞬帰りたくないような気がしてしまったが、戻らないわけにはいかない。ついでにカノンに文句も云いたい。無駄だろうけれど。 「じゃ、またね氷河!」 「はい、気を付けて」 「じゃあな、氷河」 「ああ、…頑張れよ」 とともに淡い光に包まれテレポーテーションで消えて行ったアイザックの背中に哀愁が漂っていたのは気のせいだったろうか。二人がいなくなり再び一人になった氷河は、兄弟子の苦労を思いひっそり涙しそうになった。 ***** そして、カミュの誕生日を明日に控えた日。 約束通りアイザックを伴って現れたはいきなり半泣きだった。 「ど、どうしたんです?」 「うわあああん!!!」 「氷河、残念なお知らせだ」 「?」 ガバッと氷河に抱きついたに変わり、半笑いなアイザックが云う。 曰く。 「今日の夜から、カミュは任務で出掛けるらしい」 つまり、これまでの計画はおじゃん、というわけだ。 しかも今回は某国での内乱を沈静させた後、その国のトップがほぼ機能していないことから数日は留まっていろいろとやらなければならないらしい。勿論、鎮静自体はその日のうちに出来ても、国を動かす重要な仕事なので数日で済めばいいほうだ。下手をしたら長期で戻れない可能性だってある。 はそれをつい先ほどサガから聞いたのだ。 「酷くない!?よりによって誕生日に!!サガのあほ!!ハゲ!!!」 「さ、サガのせいではないのでは…」 「わかってるけどさーッ!!」 「まぁ、とりあえず明日は何事もなく、という話だ」 「ああ…、そういうことか」 「うう、折角材料まで完璧に揃えたのに…もういっそ料理作ってそれカミュに写メしようか。今からカミュ誕祝い料理食べまーすって」 「それじゃただの嫌がらせだ」 「あう」 しかし材料は勿体ないのでそのまま城戸邸で使ってもらうとしても、意気込んで計画していただけにのがっかりっぷりはすごかった。まるでぬいぐるみのように後ろから氷河を抱き締め、その本来なら可愛らしい顔を半べそで歪めている。 その光景を見てアイザックはいろんな方面のこと考えてぎょっとしたのだが、氷河が何も云わず大人しくされるがまま抱き締められているので特に何も云えず、なかったことにしてしまおうとひっそりと決めた。この部屋を出たら、今のことは忘れよう。そうしないと心臓が持たない。 「帰ってきたら、改めてお祝いすればいいじゃないですか」 「そうなんだけどさ。どうせなら、ちゃんと当日にお祝いしたかったじゃない」 気持ちはわからないでもないので、二人とも苦笑するしかなかった。 が、出来ないものは出来ない。 「ま、任務先に追いかけて行けば出来ないこともないでしょうけど」 アイザックは悪くない。 常識的に考えて、わざわざ任務先に出向いてまで誕生日を祝うなどありえないことだからだ。 しかし。 に常識が通用するかといえば、時々ノー、であることを失念していた。 「…いいね」 「は?」 きらり、との目が光る。 きらきらと、光る。 それを見たアイザックは自分の失言を瞬時に理解し、氷河は背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。 「7日丁度になったら、カミュのとこ行こう!!」 ―――嫌な予感、的中。 「な、何云ってるんです!?」 「無理です!無茶です!!」 「大丈夫大丈夫、おめでとーって云ってすぐ帰ってくるから!」 「駄目です!!」 「大丈夫な要素は何一つありません!!」 「イケル!私が信じてるから大丈夫!!!」 こうなったを止められる人などどこにもいない。さながら暴走機関車と化したは気の済むまで突っ走らなければ止まらないのだ。 「じゃ、また迎えくるねー!」 と云って、クラッカー買いに行ってくると云い残したはスキップする勢いで消えて行った。 残された二人は、自分たちの不幸を呪った。 そしてぽつりと呟く。 「…俺たちって、何なんだ…?」 切なすぎる呟きに、答えてくれる声はなかった…。 ---------------------- わがしカミュ、誕生日おめでとう…ッ 一切わがしが出てこなかった。しかも誕生日前に話が終わっている。君に届かず終わってる(題名) …ちが、違う、なんかいつの間にかこうなっちゃっただけでホントはもっとお祝いっぽくなるはずだったんだ…!!(必至) 文章って不思議ですね。書いてるうちにまったく別のものになったりするんだぜ(黙れ) というわけで、微妙に祝えてないしメインが弟子というまさかの誕生祝いです。ごめんなさい。でも大好きなの! 弟子にはクールであれと云いつつそれを語る自分は超ホット、弟子と親友以外に興味はない、美形なのに残念眉毛、そんなわがしが本当に大好きです。 冥衣マイスのかっこよさはホント異常 ちなみにすでに聖戦は全部終わって復興作業中、死亡組は全員生き返ってる設定です。本編からの続きのつもりだから、先に書かなきゃわからん設定でした…はやく本編書きたいな! 来年はもっとちゃんと?お祝いしたいです。 ずっと大好き! カミュ、お誕生日おめでとうございます! |