アイザックは朝から憂鬱だった。
師匠、弟弟子の誕生日にやや無理矢理駆り出されたので嫌でもわかる。
明日はアイザックの誕生日だ。
彼女が何も考えない訳はない。そう思うと、知らず緊張が走る。
気付くと過剰に辺りの気配を探ってしまうので、近くにいた部下に心配させてしまった。
何でもないと答えながら、何でもないわけあるか、と自分に突っ込む。何でもありまくりだ。
この短期間に思いっきり振り回されたおかげで自分の彼女への耐性は随分強くなったと思う。しかし、あのパワフルさを直で受け取る勇気はまだなかった。
これまでは間接的にしか関わらなかったが、今度は曲がりなりにも自分自身の誕生日なのだから、当然あの彼女の破壊力抜群な計画を一身に受けるのはアイザックだ。そう考えると軽く頬がひきつる。
ぶっちゃけた話、怖い。
だがしかし、そんなことで仕事を怠けるわけにもいかず、またカノンはその辺りを楽しんでいる節があるのでバンバン書類は溜まっていく。
ただでさえ重い気分で執務室の扉を開けたのに、机に山積みにされた書類を見てアイザックは更にげんなりした。
が、これはある意味好都合かもしれない。
少なくとも仕事に集中していれば、彼女への恐怖からは解放されるだろう。集中出来れば、だが。
一度大きなため息を吐き出し、両手で頬に気合いを入れ、アイザックは執務机に向かった。






デイ・アフター・トゥモロー





机についてみれば、目の回るような忙しさだった。
考えてみれば、ポセイドンはいない、海将軍筆頭のカノンは常駐していない、ソレントはポセイドンのよりしろに付いていて滅多なことでは海底には来ない。
残りの常駐海将軍は五人。この人数ですべての仕事を賄う訳だから、大変に決まっているのだ。
その上ここのところアイザックはに拉致され連れ回される日々が続いており、まともに仕事が出来る日は殆どと云っていいほどなかった。道理で書類が山積みになるわけである。
そんなわけで、の来襲にビクビクしていられたのは最初だけで、すぐにそんなことはアイザックの頭から抜け落ちていった。提出期限間近のものが目白押しで、他のことに気など取られている場合ではなかったのだ。
結局、一息つけたのは殆ど夕方に近い時間だった。ここは海底なので日の出日没は無関係なはずだが、そんなのつまらない、情緒がないという何とかの一声で、まるで地上と同じように天井の海の明るさが変わるようになった。別に嬉しくはないが、時間の経過がわかりやすくなったのはいいことだ。
まだまだ書類は残っているが、それは提出期限に猶予がある。急ぎではないのだ。ならば少し放って置いても構わないだろう。
決して座り心地のいいものでもない椅子に座りっぱなしで何時間も過ごしたので、だいぶ身体が硬まってしまっている。伸びをしたら背中がバキバキと音を立てた。
途中で部下が持ってきたお茶はとっくに冷めてしまったが、今はとにかく水分が欲しい。ミルクだけ混ぜ冷えてしまったブラックコーヒーを一気に飲み干し、アイザックは漸く仕事に一段落をつけた。
仕事に没頭している間、来る明日の誕生日のことはすっかり思い出さなかった。
思えば誕生日は今日ではないのだ。がやってくるとしたら明日なのだから、今から身構えて無駄に緊張する必要はなかったのではないか。
空になったカップを遊びながら、アイザックは大きく深呼吸した。どうやら自分の心配は少々早とちりだったようだ。それに、もしかしたら特に奇抜なことは仕掛けずに終わる可能性だってあるわけだから、やはり心配するだけ徒労というものだ。
何分相手はなので予測不可能な行動をとるのだろうけれど、それを気にするのはそれこそ徒労以外の何物でもない。予測不可能なのだから、考えてみてもどうせ意味はないのだ。
何だか開き直ってしまえば、明日のことも大したことではないような気がしてきまアイザックだった。
どんなことが起きても『まぁさんだし』くらいの気持ちで構えていれば受け止められる気がする。あくまで、気がするだけだが。まぁそれでも気休めくらいにはなるのだから問題ない。
ちらりと時計を見る。そして未処理の書類を見て、もう一度時計を見る。

「さて……」

アイザックは根っからの真面目だ。
海底では特に就業時間の決まりはないが、彼の師であるカミュのいる聖域ではそれなりの取り決めがあるらしい。確か定時が9時入りの5時出だとか云っていた。
現在時刻は4時50分。新しい書類に手を付けるには微妙な時間だ。
そして彼は、実は8時前からこの部屋にこもりっぱなしだった。ろくに休憩も取っていなかったので、立派に労働基準を無視した就業時間である。本来中学生の年齢の少年にこんなことをさせては、日本だったら責任者を呼び出して責任追求問題だが、生憎ここは日本ではない。
ふむ、と考えたアイザックは、手早く終わらせることが出来そうな書類のみを選び、そうでないものは端に寄せた。そして手元に残った書類にペンを走らせ始めたのである。
明日は絶対に何かある。恐らくまともに仕事にならないかもしれない。ならば、今のうちに出来ることはしてしまうに限る。
なんだかんだ云って、結局自分は彼女に弱いし、甘い。自覚があるだけに、なんだかやりきれなかったが、どうしようもないのだからと諦めた。
明日になるまで時間はある。
それまでは、自分の仕事に集中することに決めた。


*****


控え目なノックが執務室に響く。
海将軍の同僚たちならばノックなどしないで勝手に入って来るはずなので、部下だろうと判断したアイザックは書類から目を離さないまま返事をする。

「開いている」

程なくして、ガチャリと扉が開く音と、芳ばしいコーヒーの薫りが漂ってきた。

「失礼します。お茶をお持ちしました」

「ああ、すまない。置いておいてくれ」

はて、海底にこんな薫り高いコーヒーを淹れるものがいただろうかと内心首を傾げつつ、書類も残りが手元にある一枚となっていたアイザックは、顔も上げずにひたすらペンを動かすことに集中していた。
気付けばあれから2時間近く経っている。これ以上はもう集中力は持ちそうにない。この書類を仕上げたら今日は今日はさっさと部屋に引っ込もうとぼんやり考えた。
軽く頭を下げた部下が、執務机の隣のサイドテーブルにコーヒーセットを置く。カチャカチャという音は決して煩いものではなく、丁寧に置かれているのがわかる程度の音だ。
すでに一杯分はカップに注がれているようで、おかわりようのポットや軽くつまめる菓子も数種類置かれている。
やけに気合いの入った用意だ。少々疑問には思ったものの、まぁ気を利かせてくれたのだろう、くらいにしか考えず、最後の署名を書き終えた。
提出は明日するとして、これで今日は終了だ。

「どうぞ」

とりあえず机上を整頓すると、視界の端にコーヒーカップが映る。書類が片付けられたのでサイドテーブルからこちらへ移してくれたのだろう。
今日の給仕は随分と気遣いがうまいようだ。
ここ最近、こんな待遇を受けていなかったアイザックは頬の筋肉が緩まる思いだった。
が、これでもアイザックは海将軍。海闘士の上に立つ人間だ。このようなことでにやにやしては部下に格好がつかない。
クールだ、クールだと自分に云い聞かせながら、カップに手を伸ばし、ありがとう、と礼を云おうと。
して。

「……………。」

カップに目をやって。

「…………………。」

固まった。

「お気に召しませんでしたか?」

本日の給仕者は、やや残念そうに問うた。
しかしアイザックはお気に召すとか嬉しいとかそういったことではなく、全く別のところで言葉を失っていた。
恐る恐る、スローモーションよりもゆっくりと、ぎこちなく顔を上げる。
何故気付かなかったのか。
何故一度でも顔を上げなかったのか。
悔やまれて仕方がない。
カップを持つ手がわずかに震え、ソーサーとぶつかりカタカタと音を立てる。
アイザックはこれ以上ないほど動揺していた。
鳥肌が総立ちし、背中にはひやりと冷たい汗が流れている。きっと顔は、血の気が失せて真っ青だ。

「……う…」

そして。

「うわあぁぁああぁぁぁッッ!!!??」

―――絶叫した。

なんで、なんで、どうして!?
疑問ばかりがアイザックの頭を駆け巡り、まともに声にならずパクパクと口は動くだけだった。
そうだ、本当に何故気付かなかったのかわからないが、この海底に、女性は――と呼べるかは定かではないが――テティスしかいないはずなのだ。
だからそもそも声を聴いたときに気付くべきだったし、少し考えれば小宇宙だって海闘士とは違っている。
なのに、どうして気付かなかったのだろう。アイザックはこれほど自分を馬鹿阿呆間抜けと罵りたくなったことはなかった。
そう、本日の給仕者は。

「えへ、びっくりした?」

海闘士の雑兵のような格好で、お盆を口許に持っていきペロリと舌をだしているのは。

「ッ、さん!!!」

だったのである。
びっくりした、とお茶目に問われても、びっくりして心臓止まりそうになりましたと云いたくなる。それくらいびっくりしたのだ。
しかしそんなアイザックの心境をわかっているであろうに、はにこにこといい笑顔でコーヒーカップを指差した。

「ねね、それすごいでしょ、頑張ったんだよ!」

云われ、改めてアイザックはカップに目をやる。
何を隠そう、これを見て、アイザックはの来訪を知ったのだ。
カップに入っていたのはいつものブラックコーヒーではない。カプチーノだった。
が、ただのカプチーノではなかった。
クリーム色のミルクの泡には、恐らくチョコレートか何かで文字が書かれている。

『Happy Birthday、Isaac』―――

―――それに続いてご丁寧に、というか器用にも最後にはアイザックであろう可愛いらしい絵まで。自然に淹れてこんなものは出来るはずないので、の台詞からもこれは彼女が手掛けたのだろう。それにしても細かな芸当だ。

「一週間くらい前からね、カミュと氷河と一緒に誰が一番巧く出来るか競争したの。二人とも字は巧かったけど、私は似顔絵つきだもんねっ!」

似てはいないが。
そして弟弟子や師匠までと同じことをしているのを想像して、思いっきり脱力した。

「とゆうわけで、どうぞ召し上がって!」

「ええと…はあ……」

生返事をしてアイザックはカップを持ち上げる。なんだかこういうものを崩してしまうのは若干忍びないような気がしたが、まさか後生大事に取っておくこともできない。
意を決したアイザックは、なるべく文字を崩さないよう、カップを口まで運んだ。

「……おいしいです」

お世辞ではない。
アイザックは初めてこんなおいしいカプチーノを飲んだ気がした。大袈裟ではなく、本気でそう思った。ミルクの泡の下に隠れたエスプレッソの濃さといい、泡にほんの少し加えられた砂糖の甘さといい、口当たりといい丁度アイザックの好みだ。

「よかった!」

今回は特に気合い入れたのよ、と笑うは元々コーヒーや紅茶を淹れるのが巧い。しかしこれは格別だとアイザックは思う。正真正銘自分のためだけに淹れてくれたものだから、ということもあるかもしれないが、それを抜いても、冗談抜きにおいしい。
そして、格別だからこそ、非常に云いにくいことなのだけれど。

「……あの、さん」

「うん?あ、おかわりならあるよ!」

「いえあの、その…」

駄目だ。云えない。
こんないい笑顔なに、事実を伝えることが出来ない。この人のことだ、きっとこのほかにもいろいろと準備をしてくれているのだろう。
どうして云えようか。

「俺の誕生日は明日です」―――

―――などと。
云いにくい。
だがこのまま誤解されたままでいるのも複雑だ。
というかこれまでの例から云って、が一人で動くことはない。多少強引な手を使っても周りの人間を巻き込んで、盛り上げてやろうとするのが彼女だ。
つまり今回も誰かしらは噛んでいるだろうし、弟弟子や師匠に至っては当然のように関わっているはずなのだが。

…誰か訂正しなかったのか!

と思わずにはいられないアイザックだった。まさか誰もが自分の誕生日を1日間違えていることはないだろう。多分。
いやしかし、考えてみれば誰かに明確に2月17日が誕生日だとか宣言した覚えはない。
だが氷河やカミュは知っている。
恐らく。
きっと。

「…………」

考えて。

―――知らないのかもしれない……。

思い至って、もう一度を見た。
にこにこと、無邪気に笑っている。
知らない故の笑顔なのだろうかと思うと、もうアイザックは訂正する気は失せてしまった。どうせ周りも勘違いをしているなら、わざわざ彼女をがっかりさせてしまうようなことを云う必要もないだろうと思ったのだ。

「…なんでもないです」

例え日付を間違われようと、この人が自分の誕生日を祝ってくれようとしていることはわかっている。それに、高々1日の違いだ。なんということもない。ただちょっと、寂しい気がするだけで。

「これ、本当においしいです。ありがとうございます」

「うふふ、光栄ですわ!」

こっちのお菓子も手作りなのよと、あっという間に執務机の上には色取り取り、甘い香りのするお菓子が並んだ。
こんなにたくさん食べきれるはずはないのに、が嬉々として出してくるので何も云えず、アイザックは困ったように笑って少しずつそれらを啄んでいく。
さすが料理上手なのお手製だけあって非常においしいものばかりだったが、甘いものが何より嫌いなは一体どんな顔で製作に当たったのか気になるところだ。ケーキ屋の前を通った時の甘い香りにすら眉を顰めるのだから、無理をして甘いものなど作ることはないと思うのだが、それでもアイザックのためにとしてくれたことなので嬉しくなる。

「でね、このあとザッくん暇だよね?」

「ええ、もう上がるつもりでしたが」

シナモンが振りかけられたフィンガークッキーを飲みこんでから頷くと、いつの間にかいつもの私服に着替えてきたらしいはウィンクして親指を立てた。

「じゃあこのままポセイドン神殿に集合で!」

何故。
よりにもよってそこなのか。
一応そこはこの海底神殿の要であり、本来であれば海皇ポセイドンの座す神聖な場所なのだが。

「実はすでに、海将軍とポセイドンとテティスと氷河とカミュが立食パーティーの準備をして待ってるのさ!」

「待て」

「うん?」

思わず待ったをかけたアイザックを、はきょとんと見る。そんな可愛らしくしても駄目だ。
誤魔化されない。
今云ったメンバーの中で、おかしな人物がいたのは、聞き間違いではないはずだ。
頬が引きつり、喉がカラカラになるのをアイザックは感じた。
そして。

「…ポセイドン?」

問う。

「うん。」

頷く。

「……………」

やってくれた。
よりにもよって自分の仕える主に。
が、そんなことはお見通しだったらしいはあっけらかんと云った。

「準備って云ったって、ポセイドンが積極的に手伝いなんてするわけないから気にしなくていいよ?どうせ踏ん反り返って座ってるだけなんだから」

「そう云う問題では…」

「いいの、こういうときはそんなこと気にしちゃ駄目!無礼講!」

あなたは常に無礼講ですよね、という言葉が喉から光速で飛び出して行きそうになったが、なんとか寸出のところで押しとどめることに成功した。危ないところだった。

「さて、ザッくんがこんな時間まで真面目に仕事してたから、きっとあっちは準備万端だよ?このまま日付変わるまで騒ぐ予定なんだから、気合い入れてね〜」

「……日付変わるまで何時間あると思ってるんです…?」

「カノン以外は若いから、テンションで持たせるよ!」

あっさりと若者から除外されたカノンに、アイザックは心の中で同情した。確かに殆どの者より10歳以上年上ではあるのだが、なんだか切なくなる。
まだ食べきっていないお菓子はトレーに戻し、明日以降に食べられるように執務室に備え付けられている給湯室の冷蔵庫に仕舞い、コーヒーのセットだけは流しに置いて2人は執務室を出た。
ポセイドン神殿までの道中は、と氷河とカミュがデザインカプチーノをものにするまでどれだけ苦心しただとか、試作品は聖域中で消費したとか――結構恥ずかしい――、料理は氷河とカミュと3人で作ったとか、そういう話をした。
決して暇な身ではないはずなのに一体どれくらい時間を掛けたか気になるが、それはまぁ置いておくとして。
楽しそうに話すに相槌を打ちながら、やはり云うべきではないなとアイザックは思った。もし今後改めて誕生日を訊ねられるようなことがあれば、その時に訂正すればいいのだ。今は、この人の笑顔を凍りつかせるようなことはしたくない。
数分後、ポセイドン神殿に着くと、すっかり準備は整っていたようで、とアイザックが並んで入ってくると待ちわびたように声がかかった。

「遅いぞ、主役!」

「まったくなんでこんな日まで残業するかな、お前ー」

「待ちくたびれましたよ」

「味見もしないで待ってたんだ、早く食おうぜ!」

「どれもうまそうだぞ」

イオ、バイアン、ソレント、カーサ、クリシュナはすでに用意されていた取り皿やらフォークやらをアイザックとに渡しながら口々に云い、

「余を待たせておきながら自分はと並んで登場とは…いい度胸だ、クラーケン」

「まぁまぁポセイドン様、今日の主役はクラーケンですから」

ポセイドンは心底羨ましそうにアイザックを睨みつけ、テティスはそんな海皇を微笑ましく諌め、

「待ってたぞ、アイザック」

「お前の好物を作ったのだ。喜んでくれるといいが」

氷河、カミュは料理を前に照れくさそうに笑った。
と違ってお前ら本当に俺の誕生日が今日だと思っているのかと問いただしたくなったが、やはり自分のために時間を割いてくれたことには変わらないので、素直に礼を云う。

「今日くらい仕事も楽すりゃよかったのに、ホンットお前は若者らしからぬ奴だなぁ」

というカノンには、さっきがおっさん扱いしていたことを伝えておいた。当然カノンは眉を吊り上げたわけである。

「おい?」

「よぉし、じゃあみんなグラス持って〜!」

そんなカノンは華麗にスルーし、ちゃっかり自分を護ってくれそうなバイアンの隣に立ったは先導するように一人高くグラスを掲げた。
成人が2人しかいないのでノンアルコールな飲み物しかないが、別にアルコールがなければ盛り上げられないことはない。それぞれグラスに飲み物を注ぎ、に応えるように掲げる。
そして。

「ザッくん、ハッピーバースデー!!」

ああ、とちょっと残念に思いつつ、全員に注目された中、ありがとう、と答えようとして。


「イヴ!!」


固まった。

「……イヴ?」

イヴ:祝日の前日、前夜

きょとんと眼を瞬かせたアイザックを、はにこーっと見つめて笑った。

「ザッくん、私が誕生日を勘違いしてると思ってたでしょ」

その通りだ。
あんなデザインカプチーノを自信満々に出されて、勘違いしていると思わないほうがおかしい。
それに実際あの時―――

「…あれ?」

そう云えば、『お気に召しませんでしたか』とか『頑張った』とかとは云われたが、はっきりと誕生日おめでとう系の言葉を掛けられてはいなかったかもしれない。
しかも、神殿にやってきた時も、主役だとは云われたが、今日が誕生日であるようなことを云った者もいなかった。
ということは。
つまり?

「名付けて『ドッキリ☆え、俺の誕生日は明日なんですけどもしかしてみんな勘違いしちゃってる?サプライズ・バースデー・イヴ・パーティー』作戦でした!!」

いや〜、思いのほかうまくいったみたいでよかったよかった!

は大満足なようであるが、騙されたアイザックの心中は複雑だった。嬉しい。嬉しいが、しかしなんだこの気持ちは。

「ていうか、こっちには弟子マニアのカミュがいるんだよ?間違えるはずないじゃん」

「おかしな云い方をするな」

「事実でしょ」

云われてみれば確かに、いくらなんでもカミュが自分たちの誕生日を忘れるはずは――氷河の誕生日はうっかり忘れそうになったことはアイザックは知らない――ないのだが、まんまとに騙されたというわけだった。なんだか悔しい。

「本当は明日お祝いしたかったけど、ここのところ誕生日企画に付き合わせてたからさすがにドッキリ出来ない気がしてね〜。ならいっそまさかの前日に前倒しでお祝いしちゃえ!って思い至ったの」

そういう機転だけは無駄に利く。
勘違いされていないことも、自分にドッキリを掛けたかったがための芝居だったこともわかったが、わかったからこそ酷く脱力した。何故そこまでしてドッキリを仕掛けたがるのかいまいちわからない。
が、それがなのだ。それがという人の性格なのだ。

「あなたって人は、こんなみんなまで巻き込んで…」

「ふふ、びっくりしたでしょ?」

「当たり前です」

「じゃ、大成功ね!」

時々面倒な気がするが、愛すべき点でもある。単に祝うより、驚かせて喜びを倍増させたいのだという彼女想いがわかるから、結局何も云えない。

「それじゃ改めて!」

再び掲げられたグラスの中で、夕暮れの海のような橙のジュースが揺れる。

「クラーケンアイザック、誕生日イヴおめでとうっ」

一生忘れられそうにない祝われ方である。
アイザックは、ここ最近では最高に笑った。










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というわけで、2月17日、ザッくん誕生日おめでとう!

ごめんなさい曜日の関係で当日に更新出来ませんでした…というかいつもの如く、今さっき描き終えたんだよin18日夕方

(´∀`)

すまーんorz

師匠より弟弟子より確実にクールなあなたが大好きです!
でも『俺の眼を潰せ』って氷河に云われた時に指を2本立てたことだけはいかんと思うよ!利子重い!数年の蓄積で片眼じゃ足りなくなっちゃったのかもしれないけど、両眼は重い!紫龍になっちゃう!(ならない)

そんなわけで1日遅れですが、ザッくんお誕生日おめでとう!
ネタ的に1日前に更新したかったけど無理でした笑

ザッくん大好き!