「明日は誕生日だな」 おめでとう、と酷く爽やかな笑顔を浮かべた上司を、海馬シーホースのバイアンはこれ以上ないほど胡散臭そうに見た。 |
僕の一番欲しいもの
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そんなバイアンの顔を見た海龍シードラゴンのカノンは、やや大袈裟に傷付いたような表情を作った。いちいち言動が演技くさい。 「何だ、その顔」 「そのままお返しします。何ですか、その含み有りまくりな笑顔は」 「素なんだ」 こんなことは日常茶飯事なので、今更バイアンは昔のように惑わされたりはしない。 過去ではカノンに褒められたり期待されるたびに心が躍ったものだが――そして現在に至っても躍らないと云えば嘘にはなるが――、今は違う。あの頃とは違う。自分も、カノンも。 だからこそこうやって冗談のようなやり取りが出来るようになったし、それが嬉しくもあり、むず痒くもある。 ともかく、あの胡散臭い笑顔を受けたバイアンは、ちらりと一瞥しただけで小さくため息をつき、すぐに手元の書類に目線を戻した。 「普段から人をたかばったような表情なんですね。残念ですね」 「喧嘩売ってるのか」 「いいえ」 まさか!と、相変わらず視線は手元のままに至極真面目な声だけを返す。喧嘩を売る気はない。負ける喧嘩はしない主義なのだ。 半眼になってバイアンを睨みつけた海将軍筆頭は、どうやら仕事に飽きてしまったようで、羽ペンを放り投げて頭の後ろで手を組み、思いっきり背凭れに寄り掛かったしまった。是非ともポセイドンにお目に掛けたい光景である。怒られろ。 注意しようと思ったが、自分の言葉に耳を傾けるような人ではないと気付いたので、一度開いた口からは吐息だけを漏らし、バイアンは大人しく自分の書類を仕上げることに専念した。カノンがこうでは、皺寄せは自分に来るのは確実だ。だったらその前に出来る限り自分の仕事は終わらせておいたほうがいい。 考えて、なんでこの人は10も年上のくせにこうなのだろう、とバイアンはなんだか切なくなった。 暫くバイアンだけが走らせるペンの音が執務室を支配し、時折カノンの欠伸した間抜けな声が割り込んだりしていたが、唐突にカノンはアッと声を上げた。 「そうそう、いい情報があったんだ」 楽しそうな顔である。良い予感は決してしない。 またもやバイアンはカノンをチラリと見ただけでペンを走らせ始めた。 「どうせ『あなたにとって都合の』いい情報でしょう」 「つれないな」 「結構です。それより仕事を、海龍」 ついでなので、期待しないまま仕事を促す。山積みになった書類は、大半が未処理だ。他の海将軍がのこのこと書類を持って来たらそのまま捕まえて手伝わせよう、とバイアンは心に決めた。何も自分だけが筆頭補佐を務める必要はないのだ。 「でもな、これは聞いといて損はしないと思うぞ。特にお前は」 ぴたり、と。 思わず手を止める。 含みのある云い方だがそれはいつものことだ、が。 何か引っかかった。 「・・・どういう意味です」 怪訝に思ってカノンを見れば、先ほどのように胡散臭い笑顔でバイアンを見ていた。 どこか背筋に嫌な汗が流れるのを自覚しつつ、カノンが口を開くのを待つ。 「伝言。明日は10時に迎えに行くから、私服に着替えて神殿で」 「・・・・・・?」 意味がわからない。 明日に待ち合わせなどした覚えはない。 「誰です?」 問えば、カノンはここ最近では久しく見ていなかった極上の笑顔――そう、玩具を与えられた子供のような無邪気な――それでいて非常に意地悪そうな、そんなどうしようもない笑顔を浮かべ、云った。 「お前が一番誕生日を祝ってもらいたいやつ」 それだけで問題の人物はわかったが。 わかったが、しかし。 ―――何故あなたが知っているんです! 叫びは声にはなってくれなかった。 ***** 翌日、10時まであと15分。場所は勿論、海底のポセイドン神殿。昨日カノンに告げられた指定の場所である。 時間までまだあるが、バイアンはすでに予定の30分前にはこの場所に待機していた。 彼女が時間に正確であることは知っているが、万が一早めに来ていたりして待たせてしまったら申し訳ない。そんなことはあってはならない。よってバイアンは予定よりも大幅に早めに待ち合わせ場所に来ていたのだった。 そわそわと、誰もいない神殿やら広間に視線を動かす。完全に挙動不審だった。 しかしそれも無理もない。 何故なら今日は、願ってもない、バイアンが想いを寄せる相手からのお誘いなのだ。はしゃぐなと云うほうが酷である。勿論バイアンのキャラ的に思いっきり表情に出すことはしないが、彼女と待ち合わせをしていると考えるだけで頬の筋肉が緩んでしまうのは仕方ない。 普段は待たされるのは嫌いだった。待たせるのも嫌だから、バイアンは海底では一番時間に煩い存在と云ってもいいだろう。遅刻常習犯のカノンやイオに説教を喰らわせている光景など、海底においては日常のようなものだ。 しかし。 ―――こんな場合に限って、否、彼女を相手とする場合に限っては、待つというのも良いかもしれない。 神殿の柱に寄りかかりながら、バイアンはぼんやりとそんなことを思っていた。 今日のバイアンと云えば、云われた通り私服だった。というかそもそも、公務や任務でない限りは法衣も鱗衣も着ないのだが。 スラックスをイメージさせるブラックのスキニーパンツのサイドには同色ながら走るラインテープが特徴的で、インナーは白いシャツで、トップスにはベージュの五分袖セミロングパーカーという格好である。 アクセサリーなどは一切付けてはいないが、十分お洒落だ。気合いが入り過ぎている感もないし、かといって手抜きという感じもしない。とはいえ細心の注意を払って選んだので、好印象を与えるには十分な組み合わせだった。 彼女に野暮ったいと思われたくはない。相手の服装をそこまで気にするような人ではないとはわかっているので、これはバイアンのプライドの問題だ。左手首に存在する腕時計がカナダ唯一の超高級ブランド品であることを除けば、そこらの男性とは一線を画くが普通の好青年である。 相も変わらずそわそわしながら、もう一度時間を確認しようとしたところで、広間に覚えのある小宇宙を感じる。 誰の物かなど、考えるまでもない。 彼女――のものだった。 「おはようバイアン、早かったね!」 「お、おはようございます」 待ちきれなくて早めに来ていたなんて悟られたくなくて、バイアンはぎこちない笑顔を浮かべるで返事とした。 広間の中央にテレポーテーションで現れたにバイアンは駆け寄る。そう、間違ってもからこちらに来させるようなことはしてはならないのだ。 当然のように自分のほうにやってきたバイアンに軽く苦笑したは、バイアンのことを頭の先からつま先までまじまじと観察した。 考えてみれば、彼の私服を見るのは初めてなのだ。うんうんと勝手に納得したように頷くと、はさらりと云った。 「やっぱり美形は何着ても格好いいもんだねぇ」 「そんなこと」 嬉しいが、決して大っぴらにはしない。イオ辺りなら胸を張って当然だと云いそうだが、そんなことはバイアンはしない。 謙遜しつつ、バイアンもの私服を目に焼き付ける。 可愛い。 可愛すぎる。 は普段からずっと私服だし、それも当然可愛いのだが、今日は特別可愛く思える。 白のロングTシャツの上にはロープ使いのウエストリボンがアクセントとなっているスカーフ柄の紺系膝丈ワンピース。念のためか、手元にはオフホワイトのカーディガンを持っていた。小さめの黒いトートバッグには赤い薔薇のコサージュがついており、彼女によく似合っている。 可愛い。 本当に可愛い。 褒め千切ってしまいたいが、立場的にいろんな問題があるのでそれは出来ない。 仕方がないので自分を落ち着かせるために、怪しまれない程度に何度か深呼吸をしてから本題を切り出すことにした。結局待ち合わせを取りつけられたこと以外はカノンから聞いていなかったのだ。 「今日はどうしたんです?」 問えば、はにっこりと笑った。 バイアンの上司の誰かとは違って、裏も含みもないような、純粋な笑顔。 ドクン、と心臓が跳ねた。 「バイアン、今日、誕生日でしょ?」 「・・・はい」 煩く弾む心臓の音が、彼女にも聞こえてしまいそうで。 そんなことはあり得ないのだが、そう思えるほどにバイアンの心臓は高鳴っていた。 うまく返事が出来たかどうかはわからないが、とりあえず、ボーっとスルーしてしまうことは免れた。の、だが。 「おめでとう!」 「―――・・・」 花のような笑顔で、己の誕生日を祝われて。 ましてやそれが、己が密かに想いを寄せる相手で。 「あ―――」 嬉しくないはずが、ない。 数えきれないほど伝えたい言葉が浮かんでは消えたが、バイアンはとりあえず真っ先に伝えなければならない言葉を慎重に選び、口にした。 笑顔を浮かべたつもりだったが、ちゃんと笑顔になっていただろうか。 不安にはなったが、ここには鏡なんてないから確かめようがない。 「ありがとう、ございます」 嬉しい。 本当に心の底から、に誕生日を祝われるのは嬉しい。 けれど同時に非常に虚しくもなる。 何故なら、この笑顔を向けられるのは自分だけじゃない。彼女は、彼女に関わる誰にもこの笑顔を向ける。他意なく、純粋に好きだという感情で。 八方美人というわけではないのだ。確かにその感がないとも云い切れないが、しかし誰にでも良い顔をしているのかと云えばそうではない。裏も表もなく、ただの好意を誰にでも向けられる、そういう人なのだ、彼女は。 しかし、そんな彼女にも、『特別』は存在する。 そしてバイアンは、その『特別』では、ない。 それが堪らなく虚しかった。 彼女の『特別』に、なりたかった。 叶わないことは、わかっているけれど。 「ってわけで、じゃーん!」 そんなバイアンの心境など知る由もないは、明るい笑顔のまま、バッグから2枚の紙を取り出し、バイアンに突き付けた。近い。近くてよく見えない。が、デザインを見てなんとなく何かは見当がついた。 「・・・チケット?」 首を傾げると、そう、とは云う。 「夢の国ペアチケット!」 夢の国。 それは某アミューズメントパークのことだ。別に名前を出しても構わないのだろうが、何故かこうして隠語を使われることが多いのは著作権の問題である。あそこは他のキャラクターに類をみないほど著作権に煩いことで有名なのだ。 閑話休題。 バイアンはカナダ出身だ。お隣の某大国には本家の夢の国があり、行ったことはないが話には聞いたことがある。そのチケットが決して安いものでないことも、常識として知っている。 「わ、わざわざ私のために・・・」 「あ、いや・・・ごめん」 チケットを持っているということは買ったのだろうと考えるのは普通だ。思わずそんなの気遣いに涙しそうになると、何故かは申し訳なさそうに視線を反らした。 「バイアンの誕生日プレゼント、何にしようか考えながら買い物してたら、偶然福引で当たってさ・・・ちょうど良いと思って・・・」 つまり、買ったわけではないらしい。 云いながら若干俯き気味になっていただったが、でも、とパッと顔を上げ無理矢理良い笑顔を作った。 「ほら、プレゼント選びの途中でゲットしたってことはこれはきっと神の思し召しだと思ったんだよね」 「それ、要はあなたの気まぐれじゃないですか」 神って誰のこと云ってるんです、と突っ込むと、は明後日の方向を見て口笛を吹き始めた。 しらばっくれる気である。 しかし、だからと云って、嬉しいという気持ちを撤回する気はバイアンにはさらさらない。 チケットを持って、待ち合わせ、と云うことは、だ。 「一緒に行ってくれるんですか?」 「そのつもりで来たんだよ!」 道理である。 ならば。 「じゃあ、十分です」 「・・・私が一緒に行くのが十分になる?」 小首を傾げたに、バイアンは微笑んだ。今度は自然に。 バイアンの気持ちなど知らないは、不思議そうに何度か瞬きをした後、しかし結局考えるのを放棄し、また笑顔を浮かべてバイアンに手を差し出した。 「行こっ!」 あなたと2人でいられるなら、それだけで。 の手を取りながら、そっと云えない言葉を飲みこんだ。 ***** 場所を移して、夢の国、の中にあるカフェの一角。 一通り遊び通し、今は夕食を摂っている最中だった。 夜の目玉であるパレードの最中なためか、2人のいるカフェにはあまり客も入っていない。大抵はパレードが一望できるようなレストランを選ぶものだから、ここには席取りに失敗した残念な人たちが疎らにやってくる程度なのだ。2人はと云えば、わざわざ混みあった場所に行くのは億劫だからと敢えてこのカフェにやってきたのだが。 しかし、運ばれてきたばかりの料理を前に、2人はまだ料理に手を付けていなかった。 何故ならが大爆笑の途中だからである。 「あっはっはっはっは!!」 「笑いすぎです」 「ご、ごめん・・・でも・・・ブハッ」 「・・・・・・・・・」 涙目になりながら腹を抱え、尚も爆笑を続けると、それを些か不機嫌そうに見るバイアン。 珍しい光景である。バイアンが相手にこんな顔をするなど、彼を知る人物ならば想像もつかなかっただろう。 が、無理もない。 不機嫌になるなと云うほうが無理だ。そして可哀想だ。 「も、もう笑わないから怖い顔しないでよー」 半笑いのまま云われても、機嫌が直るはずもない。 むすっとしたまま、バイアンはお冷に手を伸ばした。本気で怒っているわけではないが、プライドが傷付いたのは本当だった。 大笑いして喉が渇いたのか、同じようにお冷に手を伸ばし喉を潤したは、ハーッと息を吐き出すとしみじみと云うように呟いた。 「それにしても、バイアンが絶叫嫌いとは、意外だなぁ」 そう、ここまでを笑わせ、バイアンを不機嫌に陥れた原因。 この夢の国の名物である、廃鉱を暴走する鉱山列車をモチーフにした、ジェットコースターアトラクション。 これまでの人生、バイアンは遊園地と呼ばれる場所に行ったことがなかった。幼い頃の遊びといえば乗馬やチェスのような優雅なことばかりで、巷の子供のように遊園地や公園で大はしゃぎ、などとは縁遠い生活だったし、海底に行ってからはますますそんなものと縁のない生活を送っていた。 知らなかったのだ。 ジェットコースターが、あんなにスリルのあるものだとは。 「・・・悪かったですね」 敵にふっ飛ばされたりするのはいい――いやよくはないのだが、怖くはない。 それにもし仮に、ジェットコースターの座席から振り落とされても自分ならば死ぬことはないだろう。轢かれても、普通に考えて大破するのは自分ではなく乗り物のほうだ。あんなものがぶつかったところで傷付くようなヤワな身体では海将軍などやっていられない。 しかし。 そういう問題ではないのだ。 乗り物に乗っていると云うのに、あの不安定感。ありえないスピード感。内臓を引っ繰り返されるような、何とも云えない不快感。 そのすべてが、全力で嫌だった。 誓って叫び声をあげたりはしていないが、一週目が恙なく終了し、意気揚々と『もう一回!』とバイアンを振り返ったに一瞬言葉を失わせたくらいには酷い顔になっていた。 情けない。 よりにもよって、の前で。 あんな情けないところを見せてしまい、バイアンは不機嫌と云うよりもかなり落ち込んでいた。 明日には忘れててくれないだろうかとそんな詮の無いことを考えていると、はにっこりと笑った。 「悪くないよ、なんか可愛い」 「か・・・ッ!!?」 思わずお冷の入ったグラスを握りしめてしまい、ピシリとひびが入った。握りつぶさなくてよかったと安堵しつつ、今のの台詞に動揺しまくっていた。 近くのウェイターに新しいお冷を頼みながら、尚もは笑顔のまま云う。 「意外な一面が見られてちょっと嬉しかったし」 「・・・・・・・・・」 「ここはね、誰でもどんな人でも楽しめるってのが売りだし、いいんだよ」 個人的人生見られたくないものランキングに堂々一位の座を掻っ攫った場面を見られたバイアンは、呆れられたりがっかりされたりするのではないかと内心びくびくしていたのだが、そんなことはなかった。 それどころか、はあんな自分であってもいいのだと云ってくれた。 ―――ああ、この人は。 計算も計略も策謀もない。 という人の、性格。 だから惹かれたのだ。 だから惹かれるのだ。 何もかも、受け入れて受け止めてくれる優しい人だから。 「ね、バイアン。今日は楽しかった?」 問われ。 「そうですね・・・」 考える。 大型連休ということもあり、今日は大変な混み具合だった。どのアトラクションも待ち時間は相当長かったし、移動するのにも一苦労といった有様で、いつものバイアンだったらどれもお断りしたい状況だ。 けれど、待ち時間は普段はしないような話をしたり、移動中ははぐれないようにうっかり手をつないでみたり、悪いことばかりではなかった。 考える。 総合すると。 「楽しかったです」 あれ以外は。 と付け加えるのは忘れない。それほどにジェットコースターは嫌だった。軽いトラウマになった気がする。 「よかった」 そう云って、満足そうには笑った。 折角の料理が冷めてしまうからと、そこからは談笑しながら2人はぺこぺこになったお腹を満たすことに集中した。さすがにイイ値段をするだけあって、味は申し分ない。量に関しては云わずもがなだが、別にバイアンは普段から大喰らいではないのでよりも少し多めに頼めば十分空腹は解消された。 食後のデザートは2人とも甘いものが苦手であるためにエスプレッソで一服する。いろんな意味で、今日は満足だった。 昨日の時点では、どうせ今日も仕事に追われて終わるのだろうと思っていたのに、とんだサプライズである。ああもあっさりと休みをくれたカノンには感謝しなくてはならないだろう。帰った時に書類が山になっていたら撤回するが。 ともかく、今は、今だ。 「さん」 呼ぶ。するとは、何、と笑顔でバイアンを見る。 今日一日で、だいぶこの笑顔にも慣れた。 これまでは顔を合わせるのもすごく緊張したものだったが、一日中ずっと一緒にいたおかげで、耐性がついたらしい。胸が高鳴るには変わりないが、前のように言葉を失うことはなくなった。 「ありがとうございました」 素直に、感謝の言葉を告げる。 例え他意なく、単純に誕生祝いであろうとも。そこに、友愛以上の感情がないのだとしても。 それでも、嬉しくて楽しくて幸せだったことに違いはないから。 バイアンは心から、に感謝していた。 一度驚いたように目をパチクリとさせただったが、やがて嬉しそうに笑った。 「そういえば、結局物は買わなかったんだよねー。何か欲しいものある?」 「欲しいもの・・・」 に、プレゼントされたいもの。 何かあるだろうか、と考えて。 思いつく。 「あるには、ありますが」 「何?」 「今はまだ云えません」 「えー?」 何それ、と子供のように頬を膨らませたを見、バイアンは云った。 欲しいもの。 からもらいたいもの。 「でも、あなたにしか用意出来ないものです」 そして同時に、絶対にあなたには用意出来ないもの。 「ナゾナゾ?」 「そういうことにしておきます」 云って、バイアンは微笑んだ。 あなたの心が欲しいのだと、そう云ったら、あなたはきっと哀しそうに微笑んで、しかしはっきりと、謝罪をするのだろうから。 結果がわかっていても。 彼女が愛しているのは、あの人だけなのだと知っていても。 それでも諦められないこの想いには辟易するが、嫌にはならないから不思議だ。 報われない想いは不毛で苦しい。なのに、時折与えてくれる些細な優しさが涙が出るほど嬉しくて、だからこそ捨てられない。 悪循環だと思う。 本当に、報われないと思う。 そしてが口を開こうと顔を上げた時。 ―――ドンッ 「あ、花火」 何かが弾けるおとがして、数瞬後。 パチパチパチと、夜空の濃紺を極彩の光が瞬いた。花火。このテーマパークの夜最大の目玉であるパレードが始まる合図だ。 「綺麗だね」 赤、青、橙、緑、それから沢山の光が、空を見上げるの横顔を照らす。 綺麗だった。 花火なんかよりも、ずっと。 「―――そうですね」 これ以上を望めないことを知っているから。 これ以上は望まない。 だから、ならば。 時折、こうして彼女の隣を許される、今のままでありたい。 手を伸ばしても決して届かない人だけれど、彼女がこちらに差し出された手は掴めるから。 望まない、望めない。 あなたの心が欲しいとは、きっと一生云わない。 「綺麗です」 欲しいものはただ一つ。 それは、決して手に入らないたった一つ。 -------------------- バイアン、お誕生日おめでとう!! ポセイドンを信じ、何より海龍を信じて最期まで闘ったバイアンが大好きです。 何も知らなかったことを考えるととってもとっても切なくなるけど、それでも、信じるもののために闘い抜いたバイアンは本当に格好いいと思います。馬鹿!馬鹿ノン!!涙← カノンとは、前は遠慮がちで一歩引いた 真実を告げられてショックは受けると思うけど、決して軽蔑したり嫌悪したりはしないと思うんだな!盲目的にカノンを大好きだといいよ!← ちなみにバイアンがしてる時計はルーファス・ジェラルドなつもりです。服装は質素だけど一部異様にお高い。服はあれだ、ゆにくろとかでいいよ。きっとバイアンならなんでもお洒落に着こなすよ!なぜなら美形だから。CV速水さんだから← というわけで、本当におめでとう、大好き!愛してる!! 20100507 |